象牙の月

2/10
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 三日後の朝、インターフォンが鳴り、玄関に出てみるとそこには二人の見知らぬ男が立っていた。年配の男が胸ポケットに手を入れ、恭しく見せてきたのは警察手帳だった。 「すみません、こんな朝早くから。二日前に起きた事件について、二、三聞きたい事がありましてね」年配の刑事は言い、ドアの隙間から家の奥を除き込んだ。「つきましては、警察署に同行して貰えないかと。そう長く時間は取らせませんから」 「事件って、一体何の事ですか?」 「二日前、田村和之さんが奥多摩の自宅で殺害されているのが発見されたんです」年配の刑事は、音声ガイダンスのような機械的な声色でそう言った。「田村さんとはお知り合いでしたよね? その日、彼と会う予定があったようで?」 「あの日、田村さんと江戸川区の植物園で会う約束をしていました」菅原は正直に話した。「でも、約束の時間になっても、彼は姿を現さなかった」 「田村さんは夜の八時から十時の間に殺害された可能性があります。その時間、貴方はどこにいらっしゃいましたか?」 「その時間なら、呼び出された植物園に居ましたよ。江戸川区の自然公園という所です。監視カメラでも調べてみて下さいよ」 「勿論、調べているところです」刑事は冷たくそう言った。「ちなみに、田村さんとはトラブルを抱えていたそうですね」 「トラブルといっても、仕事の事で誤解があっただけの事です。だからあの日、直接会って話し合おうって事になって――」  刑事は既に調べがついているだろうにも関わらず、菅原にこう聞いてきた。 「お仕事は何をされているんですか?」 「臓器移植が必要な方に支援をさせて頂いています」 「確かNPО法人の代表をなさっていらっしゃるんでしたっけ」刑事はいま思い出したかのようにそう言った。「具体的にはどのような事をされているんですか?」 「移植が必要な方の心のケアや、情報交換、渡航手続きや現地の病院の紹介などをさせて頂いてます」と菅原は言った。「田村さんの奥様から、移植に関しての相談を受けていました。その話の中で少し、行き違いのようなものがありまして」 「詳しくお聞かせ願いませんか?」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!