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音の辿る道
たまには、叔母の言う事を聞こう。
本当は、寂しい人なのかもしれない。
夫は、ギャンブル好きな上に、投資で、幾つも失敗をしている。
他に女性がいるかもしれない。
そんな中で、叔母は、澪の家族に固執している。
寂しい人だから。
そう思って、理解しようとしていた。
叔母は、寂しい人。
自分は?
光を失って寂しいと思わなかったの。
自分の大事な人を亡くして、何も感じなかった?
そんな筈ない。
覗き込んだら、底のない暗闇が口を開けていた。
「澪・・・飲み込まれてはダメだ」
気が狂いそうな現実。
目が見えない事が、良かったのか。
悲惨な状況を見ずに済んだ。
亡くなった彼の姿を見ないですんだのが、救いだった。
脳裏に弾ける様々な光のグラデーション。
視力を失った代わりに、与えられたのは、声を色で、見る能力。
誰よりも、人の声を聞き分ける事ができる。
「混んでいるみたいね。時間どうり着きそう?」
叔母は、運転手に声をかける。
叔母の気に入ったバイオリニストが海では、ない事は明らかだった。
年齢的にも、海ではないか。
そう思って、澪は、安心していた。
日本に居る間だけ、バックアップしたい。
叔母が、音楽に興味を持つとは、思っていなかった。
それとも、ビジュアルで、好きになったのか。協力会社の家族だからなのか。
叔母にしては、珍しい。
はしゃいで、いた。
澪には、わかる。
叔母の声が、ピンクやオレンジに弾けていた。
「なあに、少しも、進まないじゃない?」
ライブ会場の、近くの国道は、渋滞で、少しも、車が動かなかった。
「仕方がないわよ。ライブのせいでしょう?」
澪が言うと
「いえ・・・そうでも、ないみたいで。」
当惑した運転手が言った。
車の脇を、何やら、騒ぎながら、女の子達が、渋滞した車の間をすり抜けていく。
「何か、あるみたいよ」
叔母も、騒ぎに気がつく。
「ライブとは、また、違うみたいね」
遠くから、騒ぐ、人溜りから、何やら、音が流れてくる。
「会場の前で、何か、あるみたい」
叔母が、遠くを見つめていた。
「何か、聞こえる」
人々の声に混じって、何か、音が聞こえてくる。
澪の脳裏に、色が弾ける。
「何かしら?」
叔母はには、わからない。
「えぇ・・・そう。ここで、車を止めて」
車道の真ん中で、降りようとする澪に、叔母は、慌てた。
「ここは、無理よ。危ないわ」
「大丈夫よ」
澪には、聞こえる。
音が、彼女を導いていた。
「こんな所で、あなたに怪我されたら・・・」
慌てる叔母。
「あの場所に行かなきゃ・・」
ドアに手を掛け、降りようとする澪を引き止めるように、叔母も車から、降りる事にした。
「どうしたの、あなたらしくない」
「行かなきゃ」
目が見えない筈なのに、澪は、まっすぐ、人だかりに向かって歩いていく。
行き交う人にぶつかりそうになるので、叔母は、間に、入りながら、ガードしていく。
澪は、こんな子だったかしら?
叔母の疑問に対する答えは、目指す、人だかりの中にあった。
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