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白杖を持つ朝の朝の女王
僕の悩み。飼い犬のルナが、僕の言う事を聞いてくれない事。ルナは、まだ、1歳になったばかりのゴールデンで、先住犬の代わりに母親が飼ってきた犬だ。犬は、家族の中で、序列を決めているらしく、母親、父親、兄貴、そして、ルナ。最後に僕と。僕は、ルナ以下の存在だ。とにかく、お転婆で、言う事を聞いてくれない。特に散歩の時のハーネスを着けるのが、メッチャ大変で、暴れ回って、捕まえるのに、時間がかかってしまう。だから、散歩を仕事前に、行くのは、遅刻の危険があるから、今までは、無理だった。今までは。僕の悩みが、犬の散歩?そんな事は、ない。本当は、もう、仕事が首になりかけている事。オーケストラの団員で、いられるのも、あと僅か。さっぱり、腕の上がらないバイオリニストの僕は、契約を更新する事ができなかった。
「音楽で、食べていけるわけないだろう」
老舗、菓子店を継いだ父親が怒鳴る。僕の家は、代々、伝わる和菓子店だ。ネット販売も出がけており、地元では、ちょっとした有名店だ。どこにでもある後継者問題が、我が家にもあって、兄は、公務員で、真面目にスーツに自転車で、街中を走り回っている。兄が、就職する時あ、僕が居たせいか、特に揉める事はなかった。だけど、6歳下の僕が、大学に進学する時も、大いに揉め、音楽で、生活すると宣言した時は、更に揉めた。僕は、家を出た。自分で、決めたバイオリンの道を進もうと思ったから。だけど、音楽の世界は、厳しかった。バイトで、なんとか、繋いで居たけど、限界が来た。家に帰るつもりはなかった。友人と趣味のYouTubeをアップしながら、何となく、過ごしていたら、兄が迎えにきた。
「黙って、帰ってこい」
兄は、父親が、癌に侵されている事。母親も、頑張ってはいるが、体調があまり良くない事を告げた。
「このまま、店を人手に渡すか、俺も悩んでいる。力を貸してほしい」
「そうなんだ」
僕は、揺れていた。戻ったら、二度と音楽の道には、戻れない。だけど、僕に頭を下げた事のない兄が、まるで、他人の様に頭を下げた姿に、僕は、決心がついた。僕は、荷物をまとめて、実家に帰った。ちょうど、先住犬が亡くなったのも、その時期だった。
「あの時は、心が弱っていたから」
僕に頭を下げた理由をそう言う。僕は、オーケストラの仕事を入れながら、細々と活動していたが、それも、もう、終わる。僕は、ルナに引っ張られながら、公園に向かって歩いていった。
「もう少し、ゆっくり歩いてくれよ」
僕は、ルナに声を掛ける。僕の知らない道を、ルナは、グイグイ行く。行き交う人達が、僕らを睨む。それはそうだ、大きな犬がテンションも高く走り抜けている。飼い主の僕は、犬に引きずられていく。その様子にみんな不安を感じるらしい。
「ルナ!落ち着け」
僕は、正面から白杖をついた、女性が歩いてくるのを見つけたからだ。
「ルナ!戻れ!」
その女性は、ルナより、更に大きな盲導犬を連れていた。
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