僕達の合言葉

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僕達の合言葉

突然、周りの時間が止まった。 あの苦しかった寧大との音楽活動も、少しだけ、芸能界に居た過去も、全て、けしtんだ。 あの日の時間が戻ってきた。 始めた逢ったあの公園。 月夜の僕のバイオリン。 なんの条件もいらない。 彼女が、見えない事なんて、関係なかった。 空気を震わせるバイオリンの音だけが、流れていく。 そこに、澪が居た。 久しぶりに見る澪。 あれ以来、どれだけの時間が流れたのか。 君は、変わらずに居てくれた。 僕は、バイオリンを弾く手を止めた。 正面に澪が居た。 互いに息を呑み、出てくる言葉を待った。 この人混みの中。 ざわつく人達。 「どうして・・」 僕は、言いたかった。 どうして、ここに居たの?って。 目で、会話する事はできなくても、澪は、遠くから、僕の存在に気付いてくれる。 バイオリンを弾く手を止めると、澪は、少し、困った表情をした。 僕を見失ってしまうのだろう。 音を色で、感じる。 澪にとって、僕は、何色なの? 以前、聞いた事があった。 「え・・と。若葉色」 「若葉色?変な表現。グリーンって事?」 「違うの。それじゃあ。言葉の表現は、大事なのよ。陽に輝く若い葉っぱ。キラキラして、生命力に溢れていて」 「なんだよ。臭すぎる」 「失礼ね。キラキラしている。昔見た、若い葉っぱみたいに、エネルギーに逢うれているの」 「へぇ・・」 「バカにしている」 他愛もない会話。 僕の声を色で、感じ取ってくれるだけでなく、僕の息遣いを感じ取ってくれる。 だから、一番、辛かった、あの時、澪に逢う事に、抵抗があった。 澪の唇が、遠くで、動いていた。 「ひ・さ・し・ぶ・り」 ゆっくりと動く。 遠くいる澪に伝える曲。 それは、あの月夜に、練習した曲だった。 確か、課題曲で、なかなか、弾けなかった曲。 答えたくて、弾き始めると、澪の体が、少し、横に動いた。 顔を向けるとそこには、中年の女性がしきりに、澪を引っ張っていた。 「澪?」 僕は、気になって、その場所から飛び降りていた。
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