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闇に沈む愛おしい人の魂は
叔母は、疑問に思っていた。
澪の様子がいつもと違う。
澪には、将来を誓い合った恋人が居た。
自分にとって、とても、嫌な奴だった。
頭が切れた。
いずれ、澪の夫となれば、この会社のトップになり、一族を引っ張っていくのは、目に見えていた。
きっと、素晴らしい経営者になるだろう。
生きていればね。
叔母は、笑った。
あんな事は、二度とない。
澪が、巻き添いを喰ったのは、予定外だったが、幸いにも、視力を失っただけで、済んだ。
目が見えない。
それは、都合がいい。
一人で、できる事なんて、限りがる。
親や、自分を頼るだろう。
恋人を亡くした傷は、深かった。
部屋に閉じ籠る日が多かった。
なのに、いつしか、澪は、表情を取り戻し、自分で、外に出かけるようになった。
しかも、目が見えないのに、モデルにまで、なって、会社を持つようになっていた。
澪に、そんな力があるなんて。
叔母は、チラッと、先ほどの青年を振り返った。
目深に被った帽子とマスクで、表情は、窺い知れない。
「澪も、バイオリンが好きなの?」
「あぁ・・・そういう訳では」
叔母が、海に関心を持つのは、危険だ。
「う・・・ん。友達の彼氏だったの」
「そうなの。まずまずの腕前ね」
「そう?」
澪は、笑った。
何も、わからないくせに。
澪には、誰にも、言えない、もう一つの秘密があった。
・・・そう。あの人には、わからないよ・・・
そっと、深い闇の中から、答える声が聞こえた。
「何も、証拠がない」
澪は、ポツンと呟いた。
・・・そうだね・・・
澪の心の闇の中に響く声。
それは、あの日に失った愛おしい人の声だった。
「絶対、尻尾を掴んでやる」
「え?何か、言った?」
車の後部席で、外を見ていた叔母が聞き返してきた。
「あ・・何でもないの。」
澪は、外の気配に関心のないふりをしていた。
海と出逢って、あの日の事は、忘れていた。
闇の中に、差した一筋の光。
海と一緒に居れば忘れる事ができたかもしれない。
ただ、叔母は、危険だ。
目的を達するには、何をしでかすか、わからない。
海にまで、手を出すかもしれない。
「それは、避けたいの」
・・・・僕の事は、忘れたの?・・・
「忘れる訳ないよ」
澪は、悲しそうに笑った。
「忘れてないよ」
澪の闇の部分に、彼の魂が沈んでいた。
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