揺れる色彩は、次第に変わり

1/1
前へ
/94ページ
次へ

揺れる色彩は、次第に変わり

澪が叔母に連れられて行ったのは、細い廊下の突き当たりにある控室だった。 叔母の息遣いが変わった。 「絶対、賛成するから」 叔母のお気に入りのバイオリニスト。 叔母は、海のバイオリンを気に入らない。 それは、澪をホッとさせていた。 叔母は、ターゲットを決めたら、絶対に譲らない。 自分の思い通りに動かす。 もはや、叔母の結婚生活は、破綻していたが、そもそも、叔母が、無理矢理、結婚した事が、原因だと思っている。 叔母の夫には、恋人が居た。 略奪愛だと、叔母は、自慢していたが、愛情をお金で買ったのだと思っていた。 互いのすれ違う感情をお金で、埋めていった。 はたで、見ていて、痛々しかった。 叔母は、少しも、幸せではなかった。 夫の愛情を得る為、多額の金銭を費やした。 澪の父親の会社を叔母は、狙っていた。 澪が跡を継ぐと知った起きから、叔母の攻撃が始まっていた。 「自分の親の会社を手伝って、何が悪いの?私にだって、貰う権利がある」 叔母が、父親の部屋で、怒鳴っているのを聞いた事がある。 「この会社は、澪が継ぐんだ。澪と澪の夫がね」 「あんな若い子を澪の夫にですって?家柄も貧しく、何もない子じゃない」 叔母は、澪の当時の彼氏を非難した。 「あの子は、この家の財産を狙った卑しい奴なのよ。澪とは、別れさせて」 「お前が、口を浜さむ事ではない」 あの日、叔母は、父親と口論していた。 叔母は、澪を憎んでいる筈。 澪は、感じていた。 側にいながら、澪の様子を伺っている。 自分を利用しながら、この澪の位置に座ろうとしている。 「素敵でしょう?」 叔母は、突然、ノックもしないで、その部屋の扉を開けた。 「こんにちは。日本語は、できるって、聞いていたわ」 突然、扉を開けられて、驚かない人は、いないだろう。 室内のスタッフが、顔を見合わせている。 何とも言えない空気は、澪にもわかった。 「急に開けて、悪かったんじゃない?」 澪は、その部屋が、叔母の言う人物の楽屋だと気付いていた。 「あら・・・そうだったかしら」 叔母は、とぼけて、そう言うと、ツカツカと部屋の奥へと進んでいった。 「ライブを見せてもらうわ。それで、契約を検討したいの。勿論、日本にいるだけだけど」 叔母の言葉は、迷いがなく、強引だ。 「期待しているわ。うちの事務所の第一号になるんだから」 叔母の言葉に、相手の反応は、薄かった。 「いいわね?」 「契約?」 ようやく、相手が口を開いた。 「そんな話聞いてないですけど」 少し、辿々しい日本語。 澪の瞳の奥で、何かが、光った。 ・・・・え?・・・・ どこかで、聞いた事のある声。 その声は、澪の視界の中で、淡い光を纏っていく。 「誰とも、契約するつもりはありません」 そう言い切ると、その少年は、部屋を出て行こうとする。 その言葉、一つ一つが、光を放ち、淡い色になる。 ・・・・この感覚・・・ 海なの? 澪は、思わず、手を差し伸べていた。
/94ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加