海と蒼。重なる過去

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海と蒼。重なる過去

突然、目の前に現れた女性に、蒼は、困惑していた。 話は、聞いていた。 父親の育った国を知りたくて、少しの間、滞在しようと思っていた。 バイオリニストとしては、フリーだったが、日本で、活躍するにあたり、事務所を置きたいと考えていた。 父親の生まれた国で、認めてもらいたい。 そんな思いに、母親が、力を貸してくれて、取引先で、音楽事務所を立ち上げる話を聞きつけ、蒼に勧めてきたのだ。 だが、こんな変な人達だった? 蒼は、顔を顰めた。 バイオリンが行方不明。そして、ライブ前のピリピリした空気。 無遠慮に飛び込んできた派手なおばさん。 もう一人の女性は、静かに立っているだけだが一緒にいるおばさんは、最悪だ。 一人で、話だし、完結している。 こんな無神経な人の事務所と契約したいと思うか? 蒼は、鼻を鳴らした。 事務所の事なら、榊さん達と相談すべきだ。 年上と言うこともあって、萌も頼れる音楽仲間だ。 「これから、忙しいんで、後にしてもらえます?」 蒼は、冷たく言った。 別に、契約なんて、幾らでもある。 それに、外の騒ぎも気になっている。 会場の入りが悪いのも、外で、何かが、起きているせいだ。 「会場の入りが、あまり良くないわね」 派手目の女性が、気にしている事を口にした。 「ずいぶん、外では、盛り上がっているみたいだけど」 「外で、何か、あるんですか?」 外の様子が気になって仕方がない。 「あら・・・あなたの足元には、及ばないけど。ここの宣伝かと思ったわ」 「足元?何の事ですか?」 そこで、ようやく澪が口を開いた。 「バイオリン。引いている人がいたの」 「バイオリン?」 路上で、バイオリンをひく人なんて、幾らでもいる。 珍しい事ではない。 「それが、原因で、皆、遅れているんですね」 遅れてくれるなら、自分のバイオリンが間に合うかもしれない。 「遅れると言うか・・・」 叔母は、澪を見た。 澪は、何かを言おうとしているのを感じたからだ。 「そのバイオリンの音色が、不思議なんです」 澪は、言うべきか、迷っていた。 音を聞いただけなのだ。 バイオリンの音と、声の持ち主が一致する訳がない。 だけど、どうして、こうも、海と重なるのか。 「ここに居るあなたと、外にいる彼の姿が、どうしても、重なるんです」 「何を言ってるの?」 叔母は、理解できず、澪を問いただした。 「外にいる人と、何か、親しげだったけど、あなたは、蒼を良く知らないでしょう?見えもしないのに、変な子ね」 「見えないなんて・・」 蒼は、失礼な発言に、怒った。 「本当に失礼なひとですね」 違和感は、これだったのか。蒼は、納得した。どこか、遠くを見る瞳は、光を失っていた。 「とりあえず、あなたは、帰ってください。」 蒼は、スタッフを呼ぶと、叔母のみ、部屋から、出て行ってもらった。 「あんな、失礼な人と、一緒にいるんですか?」 澪に椅子を用意した。 「少し、その彼の話を聞かせてください」
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