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大妻の話
あたし、大妻梓はずっと彼女、軽井沢薫を避けてきた。
もう3月も終わりだ。あれからもう半年近く経つ――。
一夏の冒険……そういってしまえば簡単かもしれない。
あの日、あたし達は異世界に飛ばされた。
松本先輩の不慣れな運転の所為で、崖から落ちたはずだった。しかし、気が付けば、異世界に飛ばされていた。
その異世界では、魔王が伝承通りに生まれ、世界を征服しようとしていた。
同じころ、魔王を倒す伝承の勇者が、誕生していたそうだ。だけど、伝承によれば、異世界からの仲間を引き連れなければならないという。
それがあたし達だった。
理不尽な説明に、あたし達は怒ったが、従うしかなかった。
なにせ魔王を倒さないかぎり、あたし達は、現実世界に帰れないと脅されたのだ。
――まるでゲームみたい。
結局、現地人の勇者に、あたし達4人は無理矢理付いていくこととなった。
松本先輩は、戦士に。
美鈴は、魔法使いに。
軽井沢さんは、僧侶に。
あたしはというと……武闘家になった。
無理矢理、勇者と共に旅立った。
その旅はゲームでも何でもない。
痛いし、怪我もする。モンスターといわれる野獣は、本気であたし達を殺しに来る。
――夢であれば覚めてくれ!
そう何度も願った。だけど、松本先輩は死んでしまった。
酷い死に方だった。野獣に食い殺された。
美鈴が先輩を好きだったことは知っている。
先輩の肉片を集めて、ヒーラーのカオリは何度も回復魔法をかけた。だが、復活することはなかった。
――ゲームなら復活するのに!
そんな簡単なことじゃなかった。
あの世界の勇者はぶっきらぼうに、無駄だという。それがあの世界の常識かもしれないけど……当然、あたし達は怒り、勇者とケンカ別れした。だけど、行く当てもないまま、知らない世界を彷徨うしかなかった。
目的のない旅は……とても辛かった。
――モンクのあたしが護らなければならないのに……
女3人では生きていくのに限界を感じていた。
そんな時、傷心していたメイジのミスズが死んだ。
ある日、野盗に襲われたのだ。
油断していた事もある。だけど、それまでは、勇者と松本先輩で何とかなってた事を思い知らされた。
モンクのあたしだけでは、ふたりをかばう事はできなかった。
先に野盗共は攻撃魔法を使うミスズを追い詰めた。あたしは、カオリを護るのが精一杯で気がついた時には、全身血だらけになっていた。
――次はあたし達だ。
覚悟を決めたあたしとカオリだったが、そこにあの勇者が現れた。
ケンカ別れしたとはいえ、あたし達を探してくれていたのだ。
――そこで惚れたのかもしれない。
柄にもなく、あたしはこの勇者に好意を抱いた。
でも、あたしは黙っていることとした。
あたしよりも、ヒーラーのカオリが積極的に彼にアプローチをかけていたから――
クラス委員長をしているぐらい彼女は頭もいいし、落ちついている。
現実世界でも密かに男子が、噂していることぐらいは知っていた。
――あたしには敵わない。
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