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「ぜったい秘密だよ。わたしね、好きな人がいるの。その人の名前は……」
泣きそうな笑顔で理亜が教えてくれた名前を聞いて、私は驚いた。
同時にお人好しって可哀そうだなとも思った。
「聞いてくれてありがとう、百合子」
話し終えて心の痞えが取れたのか、理亜はほっとしたような笑顔を浮かべていた。
軽く首を傾げた拍子にサラサラの銀糸が揺れる。
ドイツ人クォーターの美少女の純粋無垢な笑顔。まるで妖精みたいだ。
私は彼女のことが嫌いじゃない。でも……
ごめん、理亜。
言葉にできない謝罪を胸に奥に抱いて、私は「辛かったね、いつでも相談にのるから」と親切な顔をする。
そうしながら、心の中で呟く。
性善説なんて嘘。人間はもっと利己的な生き物なんだよ。
窓の外には暮れゆく空が広がっている。燃えるような茜色。目の前の少女の瞳と正反対の色。
溶けて形を失う火の玉のような太陽が、理亜の色白の頬と黄色い私の頬を、等しく紅に染めあげた。
真面目でいい子だけが取り柄の私が唯一罪を犯した、高校二年生の秋。
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