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その夜もその次の夜も4人は『仕事』に精を出した。家に侵入し、金目のものを手当たり次第に車に運んでいく。まるで子どもの頃に池で蛙の群れを捕まえたときのようだ。なんの造作もない。3つのベッドルームは物であふれかえった。ローラが言う前にイヴェットは、
「2階の掃除は任せるわ。勝手に入られるのって、若い人は嫌でしょ?」と言った。
故郷の町では幸運の女神から邪険にされっぱなしだった4人に運が回ってきた。……ただみんな疲れやすくなっている。足取りが重い。目もしょぼしょぼする。
「なんか風土病にでも罹ったのか?」
「風土病って?」
「マラリアとか。……しかし、カンザスにそんな病気はないはずだし」
イアンが考え込む。
「暑さのせいだよ。きっと」
「おまえはバカか? こんな暑さくらいでバテるわけがないだろ。……あんまりラッキーだから体がびっくりしているのさ。まるで女が大股広げてるようなもんだからな」
ケニーが笑い飛ばした。
朝食の時間にイヴェットが言った。
「今夜、パーティをしたいんだけど、参加してくれる? 何人もの人からみなさんを歓迎したいって言われてて」
ローラがイアンの目を見てから答えた。
「あら、それはどうもありがとう。……でも、あたし、ドレスとか持って来てないんですけど」
ケニーがシリアルを危うく吹き出しそうになっている。
「わたしが若いときに着たのでよかったら着てくれる? プレスリーに夢中だった頃のだから、けっこう……」
「クールね!」
うれしそうにローラは叫んだ。
夕方、何台もの車がイヴェットの家の前に停まった。よろよろ歩く老人もいた。みんな夏だというのに盛装してきていた。ばあさんたちは指という指にダイヤモンドやサファイアの指輪をし、ネックレスを皺だらけの首にいくつもつけている者もいた。じいさんたちは金の鎖をヴェストのポケットからのぞかせ、フィドルやバンジョーを持って来た者もいた。
「まるで歩く骨董品屋だ」
その不自然なほど着飾っている老人たちを見て、イアンはケニーにささやいた。
「Sitting ducks.カモネギさ」
舌なめずりしそうな顔で応えた。
七面鳥のロースト、ミートパイ、ミネストローネ、サンドウィッチ、フライド・ポテト、ブラックベリーのプディング、ハチミツたっぷりのスコーン……大量の食べ物が持ち込まれた。にぎやかなカントリー・ウェスタンをバックに年寄りたちが踊り出し、ケニーやルロイも引っ張り込まれた。ジャケットを脱ぎ捨てたじいさんが周りに冷やかされながら、ローラをうやうやしく誘う。
カクテルから始まって、ワインやらバーボンやらいろんな酒を勧められ、したたか酔った4人はベッドに倒れ込むようにして眠った。ダンスの邪魔だとばかりに先を争うようにジュエリーを洗面所に置きっぱなしにしたのをごっそり盗んだ満足感も手伝っていた。……
喉の渇きに目が覚めたルロイは、床に転がっているケニーの顔を見て驚いた。
「ケニー、起きてよ。大変だよ」
「おまえはバカか。頭が痛いんだ……ん? あはは、おまえその頭どうしたんだ?」
ルロイは頭を触ってみた。ふだんからちょっと薄いのを気にしていた毛の感触はなかった。
「あっ、あー!……で、でも、ケニーだって」
ルロイが壁の鏡を指差すのを体を起こして覗き込もうとする。体の中に鉛でも入れられたように重い。鏡の中にはいちばん嫌なやつがこっちを見ていた。おれとおふくろを殴るしか能のなかった飲んだくれおやじだ。
ベッドの端に横たわっていたローラも椅子に座ったまま眠っていたイアンも、顔には深い皺が刻まれ、白髪が混じっている。
「いやー! 助けて!」
「あの年寄りども! 一体おれたちに何をしたんだ!」
イヴェットのベッドルームを蹴るように開ける。フロアランプに照らし出されたイヴェットは皺が少なくなり、髪もつやがあるように見えた。何より毛布をかき寄せる仕草が老婆のものではない。
「おい! どういうことなんだ? これは」
ケニーがキッチンから持ち出した肉切り包丁を首に突きつける。
「……ここで仲良く暮らしましょう。ね? それがいいわ」
「ふざけるな! おれたちを元に戻すんだ! 殺されたいのか?」
「殺人なんてしちゃいけないわ。……あなたたちのためよ」
「きいたふうなことを言うな!」
逆上したケニーがイヴェットの首を突き刺した。血が勢いよく吹き出し、ごぼごぼという音がする。……苦しみながらイヴェットの息が浅くなっていくのを見ながら、イアンが言った。
「だめじゃないか!」
「なんだよ! この薄気味悪いババアを殺しちゃいけないって言うのか?」
「そうじゃない。この部屋でやってしまっては証拠が残りすぎる。殺すんならもっとひと気のないところに連れて行くか、自殺に見えるようにすべきだった」
「すまん。悪かった」
「まあ、やっちまったものは仕方ない。おい、ルロイ、ガレージから綿布を持って来い。これを包むんだ」
ローラは爪を噛んだまま震えていた。
車は沼に向かった。イヴェットの家からショットガンと護身用の小さなピストルを持ち出し、イアンが運転した。ケニーは寒気がすると言って、後部座席にうずくまっている。イヴェットはトランクに入れる時には息を引き取っていたようだった。……
自分たちが老いてしまった原因が老人たちから物を盗んだことにあるんじゃないかとみんな思っていた。そんなバカなことが。しかし、もしそうだとしたら?
『とても治安がよくて、町の人は出かける時も夜寝る前も家のカギなんか掛けません』
あれはおれたちを招き寄せるための罠だったのか? 最初から?……誰もが口を閉ざしていた。
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