「包囲もらる」

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「ああ~、楽しかったー。おばさん!少し、夕涼みしてくるね~」 「……今からかい?もう暗いよ?ここらは街灯もないし」 「平気、平気ー、みんないるし!そんじゃ、まぁ、行ってくっから~」 「……」 夏の休暇を利用し、大学生の“Aさん”は、数人の仲間とN県にある親戚の旅館へ、遊びに行った。 夜でも暑さが残る都会と違い、虫の声と風がよく通る田舎のあぜ道… 夜の散歩に、もってこいだったし、彼等の楽しみにも色々と都合が良かった。 仲間達と話しながら、歩くうちに、一人が花火を用意し、それを見た他の者も 「よーし、やるかぁっ」 と言う声を合図に、全員が酒を取り出し、ロケット花火を打ち上げながらの行進と言った、親戚の家での“バカ騒ぎ”の続きを始めた。 1時間くらい酒を飲み、大声を上げ、花火を振り回した頃だろうか? 友人の幾人かが、道の両方に広がる、腰元まで伸びた稲が生い茂る、田んぼをジッと見つめ始める。 「どした?」 「何か動いてねぇか?」 「?」 酔った頭を振り、視線を動かす。あぜ道からは、田んぼの端まで見える。その緑の中、稲をなぎ倒しながら、複数の何かが、ゆっくり、こちらに向かってきていた。 まるで“恐竜を現代に蘇らせる”某有名映画のワンシーン、高い草場に入った人間達を小型恐竜が襲うアレと同じだった。 倒された稲の轍は、左に3、右に4つ…計7つ、腰までの高さから言って、動物? それが人間に向かってくる?騒ぎ声に反応して?あり得ない。こちらは火を使ってる。獣なら逃げる筈だ。 全員が、その場に釘付けになったように動けなくなる中…移動する轍が眼前まで迫る。驚いた勢いで、足を滑らし、尻もちをついたAの、草と同じ高さまで下がった視線が、稲の隙間から除く“人間の目”を認めた所で、彼は意識を失った…  「この時期はね。夜は還ってきた人達で溢れかえる。だから、外を出歩く者はおらん。ましてや、バカ騒ぎの続きをするなんて、もってのほかだよ」 朝方に農作業を行う人に見つけられ、A達は親戚の旅館で介抱を受ける。その段階で、この話を聞き、理解と納得… だが、不満は残る。 「じゃぁ、何で教えてくれなかったんだよ?」 「言って、やめたかい?アンタ達は?」 彼の声に、親戚はため息をついて、答えた後、彼等の宿泊部屋を恨めしそうに見る。 敗れた障子、壊れた天井が広がる光景を… 静かになったAの耳に冷たい親戚の声が響く。 「アンタ等の方が怖いよ。よっぽどね…」…(終)
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