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あの日のことは一字一句覚えている。
満開の桜の木のもとで彼が発した言葉。
「君のことが好きだ。付き合ってくれないか。」
人生で初めてされた告白。しかも意中の人から。
返事は「はい」以外に考えられなかった。
それがたとえ四月一日だったとしても。
あの告白は果たして本当の気持ちだったのだろうか。
疑問は棘のように私の胸に突き刺さって抜けないままでいる。エイプリルフールでウソをついて良いのは午前中までであり、午後にはネタバレをすべきであるという話もある。しかし彼はその後ネタバレすることはなかった。
ならば信じて良いかーーーーと自分の心を慰めてはみても、さほど意味は無かった。彼がそんなルールを知ってるとは限らないから。
結局のところは直接彼に真意を問うしかないのだ。
膨れ上がる気持ちを時には抑え、時には振り払ってなんとか過ごしてきた。だけどやはり、聞かねばならない。私の気持ちにケリをつけるために。
「あー、やっぱほとんど桜散っちゃってるなぁ。」
「だね。そういえばさ、見てよあの桜の木。覚えてるでしょ?」
「ん?ああ、あの木・・・って、なんだっけ。」
私たちは地面に散った花びらを踏みしめながら、川沿いの桜並木を歩いていた。
その場所に向かうのは私の決意でもあった。道から少し外れた場所にある小さな公園、ひっそりと佇む一本の桜。始まりの場所であの日の真意を問いただす。
しかし今の反応からして幸先は悪いと言わざるを得ない。
二人の大切な場所を忘れてるとはあり得ない。わざとトボけているのか。だとしたらなぜか。私はこの数日の雨で散らされた花と同じような気分になった。
彼はそれから何も言わず私の後ろを黙ってついてきた。気まずい顔をしてるのか、怒ってるのか。それともすべてわかった上でニヤニヤと笑っているのか。
前を行く私にその表情はわからない。
例の桜の下に着く。
遅れてやってきた彼とともに枝を見上げた。
「この桜は散っちゃってるな。」
と、垂れ下がった一つの枝を指でピンと弾きながら彼は言った。足下ではすっかり散り落ちた桜の花を無造作に踏んでいる。
「そんなことより、ここ。本当は覚えてるんでしょ?」
「・・・」
無言のまま別の枝をいじりだす。
思案してるような顔。やはり、覚えている。ならば私がこれから聞くことも察しがついてるはずだ。
私は木の幹にそっと手をやり、彼を視界の端にとらえながら、
「あの日、エイプリルフールだったよね。」
と呟くように言った。
二人の間にしばしの沈黙が流れる。
そして彼はフッと笑うように口元をゆがめた。
「そうさ。あれは嘘だよ。」
今度は私が無言になった。
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