Ⅱ.私達のエピソードゼロ

1/1
前へ
/8ページ
次へ

Ⅱ.私達のエピソードゼロ

 ――私とタツキとの出会いは大学時代に遡る。  どこか斜に構えていて、ゼミでもすみっコぐらしだった私。それとは対象的に、いつも誰かに囲まれている輪の中心、太陽みたいだったタツキ。まさに陰と陽。そんな形容がしっくりきてしまう。  陰の竹畑(たけはた)リサ、陽の清宮(せいみや)タツキ。  そんな交わることがないはずの線が交差したのは、教授の気まぐれがきっかけだった。  大学三年の時、ゼミの忘年会幹事を私とタツキとで任されたのだ。教授の思い付きで引いた学籍番号が私達二人だった。結果として、そんな教授の行動が私達の付き合うきっかけとなった。  その幹事の時だって、好奇心と勢いでお店を決めようとするタツキを私が止めるという形だった。  教授が魚介類を食べられないのに海鮮居酒屋にしようとしたり、会費が限界突破するような屋形船を予約しようとしたり。陰キャな私でも、ついついキレのあるツッコミを披露せざるを得ない、そんな状況だった。  しかしそれがタツキにとっては新鮮だったらしく、 「竹畑さん面白いね。色々止めてくれてありがと!」  そう言ってくれた。  そこからタツキがやたら遊びに誘ってくるようになった。ある時は映画に、ある時はクレーンゲームに、またある時は普通のお散歩に。とにかく興味をもったら行動したい人間だった。  普段活動的で無かった私は「この人とは生きるペースが合わないかも」と思っていた。けれど次第に、そんなタツキを見ているのが楽しくなってきた。ついて行く側の私の体力は足りていないのだけれど、それでも、クタクタになっても、少年のように目をキラキラさせて楽しんだり、がっかりしたりしているタツキの姿を、見たいと思うようになっていた。  そう。いつしか私は、タツキに恋をしていたのだ。  陰な私なんかが烏滸がましいとは思った。けれど、こうしてタツキの隣にいられるならば、彼女として一緒にいたい。もしそれが叶わないなら、一緒にいること自体が生殺しだ。そう思い立った私は、告白をした。 「私、清宮くんのこと好きになった。付き合って欲しい」  私がそう告げた時、タツキは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。 「……え? 俺達って、付き合ってなかったの?」  タツキの中では、私達は一緒に散歩をした時点でお付き合いをしていたらしい。なんだそれ。タツキ曰く「散歩できる関係って特別だろ!」とのことだった。でも、そんなところが好きだったし、より好きになった。  私達は「タツキ」「リっちゃん」と呼び合う仲になり、正式に恋人として歩み始めたのだった――。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加