Ⅲ.現在地

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Ⅲ.現在地

 付き合ってから四年の歳月が流れたが、私達の関係は根本的に変わってはいない。互いに社会人になって、顔を合わせる時間自体は減ったけれど、それでも毎週数回のペースで会っていたし、仲違いもしていない。  むしろ、あまりに変わらなすぎて心配になるくらいだった。  大学時代から付き合っていたカップルは、ほとんどが破局を迎えていることを風の噂で知っていたし、ごく一部の希少種は既に結婚をしたとの話も聞いていた。何にも変わらずに、悪く言えばダラダラと学生時代の余韻を(むさぼ)っていた私達は、このままでいいのだろうか。そんな風に考えることもあった。  ――お弁当の入ったバスケットを持ちながら、ぼーっと立ち尽くしている私の前に、青いミニバンが乗り付けた。タツキの車だ。 「おまたせ! 乗って乗って!」  ウィンドウを開けて発したタツキの声にハッとして、私は電池を交換された玩具のようにどこか唐突に動きだし、助手席のドアを開けた。 「お弁当、作ってきてくれた?」 「作ってきたよ。でも食べる場所あるのかなあ」 「あるって! 絶対名所確定だから!」 「だといいけど」  私がジト目でタツキを見やると、お構いなしに満面の笑みで返された。 「そんじゃ、花見ヶ崎自然公園へ、しゅっぱーつ!」 「……せめて食べる場所がありますように」  もうこの際「お花見」という当初の目的は果たせなくても文句は言わない。せめて花見ヶ崎自然公園が、芝生のあるような、シートを敷いてゆったり出来るような公園であればいい。私はそう思った。  ……というか、私も予め公園のことを調べくことも出来たはずなのだが、それをしなかったのだから、すっかりタツキ教徒の一員だ。ワクワクに取り憑かれた戦闘民族・その二なのだ。
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