10人が本棚に入れています
本棚に追加
Ⅳ.未知の道
マップアプリで事前に見た場所の大まかな情報は、二つ県を跨いだ先にあるということだった。そして移動時間は高速道路含めて二時間半程度。これはGoogle先生がおっしゃっているのだから確かだろう。
遠すぎず近すぎず。小旅行という言葉には十分片足を突っ込んでいる。
もし期待外れの場所にたどりついたとしても、ドライブとしては良い感じだったと言えるのではないか。そう割り切っていた。
車は私の期待と不安を乗せて、そしてタツキの特大のワクワクを乗せて、ぐいぐいと大自然に引き寄せられるように郊外へと突き進んでいった。
途中、車内の会話は少しだけ昔と変わった。
タツキも私も仕事の話をよくするようになった。タツキはシステム開発に携わる会社に就職した。でも結果的に開発というよりはその管理、お客さんとのつなぎ役を担っているらしい。適任だと思う。
よく「みんなわがまま言ってくれるよ」と愚痴っているが、その顔は曇っていない、むしろにこやかだ。人と人の間にいて、それでも自分を見失わない太陽、それがタツキなのだ。
私はと言えば、タツキと違って『本物の愚痴』ばっかり。
運良く大手電機メーカーの経理職に就くことが出来たのだが、若い女子社員に意地悪な既婚者層の方々や、雑でやる気のない少し上の先輩、彼氏がいると断っているのに誘いがしつこい同僚。職場環境は、はっきり言ってストレスばかりだ。
私がそんなことを言っても、タツキは全く嫌な顔をしない。むしろ「リっちゃんには俺がいるから大丈夫!」と励ましてくれる。
先輩に言い寄られていることなんて、ちょっと嫉妬させようと思ってわざと言ったりもしたのに、それさえも「リっちゃんは身持ちが固いから大丈夫!」と全幅の信頼を寄せてくれていた。私は心底、自分の醜さが嫌になったものだ。
今日も車内は、愚痴や同級の話題で盛り上がっていた。
会話が途切れないというのが、とても心地よかった。
最初のコメントを投稿しよう!