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Ⅷ.またいつか
私達は車に戻ると、お弁当の入ったバスケットを開けた。
もう空腹と戦っても仕方がないし、この薄っすらと桜の見える駐車場で、お花見のお昼ご飯にすることにした。
「――お! 出たーリっちゃんサンドイッチ! 美味いんだよな!」
「やめてよ、普通だよ」
「その普通がいいんだよ!」
「おい褒めてるのか?」
そんな会話をしながら、私達は満足感に包まれていた。
確かに望んだようなお花見ではなかった。でも私達だけのお花見が出来たような気がしたからだ。
それに今、パクパクと美味しそうに私の作ったお弁当を頬張っているタツキが目の前にいる。その笑顔を見られている。それだけでも幸せだった。
「また、来ような」
タツキが言った。私は頷いた。
「そうだね。ここ、いい場所だったね」
「いや、そうじゃなくって――」
タツキはそう言うと、咀嚼を止めてしっかりと私を見た。
「――またこうやって、ワケのわからないところに、旅に来ようね」
「なんだそれ」
「こうやっていい場所を見つけるんだよ、一生をかけて!」
そう言うと、またフォークを手にとって唐揚げを食べ始めた。
一生をかけてって……どういう意味よ。思わせぶりなことを言っておいて、自分はまたご飯を食べるんかい。本当にらしくて困る。
口の中で笑みが溢れるのをグッと堪えていると、タツキがまたフォークを置いて私の方に視線を向けた。
「あのさ、付き合う時みたいに言いそびれると嫌だから言っておくけど、俺はリっちゃんと結婚するからな!」
「……え?」
「だぁかぁらぁ! リっちゃんは俺と結婚するんだよ! これかもずっと、一緒にいるんだよ!」
タツキはゆっくりと近づいてきて、私の額に自分の額をくっつけた。まるで小さい頃にお母さんが熱を測る時みたいに。
「……さっきの御夫婦みたいに、またいつか、ここに桜を見に来よう」
「……うん」
いつも勝手に行き先を決める勝手なタツキ。
好奇心に任せて、ワクワクの赴くままに突き進むタツキ。
でも今日は、私に許可をとってくれたね。
「もちろんこの先もずっと一緒に行くよ」
この唇と唇が離れたら、すぐに私からも、そう言うからね。
■おわり■
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