叫んだ私は悪くない

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叫んだ私は悪くない

 お義母様が涙ぐんで仰いました。 「ルシアちゃん。本当にごめんね、ごめんね。あのバカには私からきつく言っておくから」 「お義父様、そしてお義母様。私は本当に大丈夫ですから。お会いしたいのはやまやまですが、父の見舞いや弟の世話などに時間をとることができるので。私たちはこれからとても長い時間を夫婦として過ごすのですからゆっくりで良いと思っています」 「ああ! ルシアちゃん! 君はなんという優しい子だ! あいつには勿体ない淑女だよ! なあノバリス」  お義母様が涙ぐみながら何度も頷かれます。 「本当に。本当に優しい子。こんなに美人な上に心も美しいわ。素晴らしいパートナーを得たというのに。ごめんなさいねルシアちゃん。でもあなたの言う通り、あの子も頑張っているのだと思うの。王宮に出仕してまだ五年なのに、文官の中でも三番目に高い地位にまで昇っているのだもの。もう少し我慢してくれる?」 「はい! もちろんです。心からルイス様のことを応援しております!」  私は満面の笑みで力強く応えました。  でもたった5年でナンバースリーになれるって、どれだけ王宮ってちょろいのかと思いませんか? それとも何かカラクリがあるのでしょうか?  まあ、結論から言いますととんでもないカラクリがあったのですが、その時の私は知る由もございません。  お義父様とお義母様は、一週間ほど滞在されて領地に戻られました。  どうも王都でお仕事があったようです。  どんなお仕事かは、アレンに聞いて勉強しておきなさいと仰いました。 「いずれあなたたちに引き継ぐのだから、知っておくのは大事なことよ? ふふふ」  お母様は私の頬を指先でぷにぷにと優しくつついて仰いました。  お母様、もう少し爪を切った方が良いかもしれません。  それにしても、お掃除以外にできることが増えました!  根っからの貧乏性で、ニア守銭奴と自覚しております私としては喜ばしいことです。  お義父様とお義母様は王城に日参され、ルイス様と面会しようとなさいましたが、会議だとか出張だとか、いろいろな理由をつけられ秘書の方に会うのがやっとだったそうです。  ご両親でさえそうなら、顔も知らない婚約者などが行っても、ユスリタカリの類と思われるのが関の山でしょう。  まあ行く気もございませんが。  そんな感じで私は、午前中はお掃除、ランチの後でエルランド家の歴史と領地経営のお勉強をして、みんなで楽しい夕食という規則正しい毎日を過ごしておりました。  。  返事がないことにも慣れましたが、字のお勉強だと思って週に一度はルイス様に近況報告のお手紙をお送りすることは続けております。  この屋敷で半メイド的な暮らしをして、もう三か月が過ぎました。  父の容態は低値安定というところでしょうか。  弟のジュリアは王宮の文官試験に合格したと言っていましたので、細々とではございますが実家も継続できるでしょう。  これもすべてエルランド家のお陰です。  私は一生をかけてこの御恩に報いると決意を新たにいたしました。  それなのになぜ?というほどの大金が義両親から送られてきました。  もしや手切れ金? と思ってしまいましたが違いました。  私たちの結婚式の衣装代だったのです。  そうです、結婚式です。  あと3か月しかありません。  すっかり忘れておりましたわ、私としたことが。  おほほほほほ。  早速ルイス様にお手紙を出しました。  今まで出したお手紙のテーマは「儚くも美しい気弱な女性」だったので、今回もその路線を貫きます。 『ルイス様  今朝も小鳥たちの囀りで目覚めました。お屋敷の庭の花たちも徐々に蕾を膨らませ、季節の移ろいを感じます。うんぬんかんぬん  本日お手紙をしたためましたのは、あなた様と私の結婚式についてです。エルランド伯爵ご夫妻より衣装の準備金をお預かりいたしました。ルイス様はどのようなデザインがお好みでしょうか? お色は何になさいますか?うんぬんかんぬん  私はルイス様のお好みに合わせたいと思っておりますので、ご要望だけでもお聞かせ願えないでしょうか。仕立てには約1か月はかかるそうですので。うんぬんかんぬん  結婚指輪はどうされますか? こちらで適当にということでしたら、指のサイズだけでもお知らせください。  季節の変わり目でございます。どうぞご自愛なさって下さいませね。毎日あなた様のご健康とご活躍をお祈りしております。    ルシア』  毎回アレンさんに添削してもらいますが、絶妙な会いたい感を演出するのは難しいものです。  それにしてもアレンさんは凄いです。 「これで返事が来ないなら、坊ちゃんは人を辞めたのかもしれません」  毎回そう仰いますが、毎回返事はありません。  私の旦那様は人ではないみたいです。コワイ……。  しかし! 今回は返事が来たのです!  自筆ではなく代筆でしたが。  便箋ではなく王宮の業務連絡用紙でしたが。  プレゼントも花も栞も何もありませんでした。  しかもその内容が、なんとも寒々しいものでした。 『好みは無い。色も任せる。指輪は不要。以上』 「なんじゃこりゃ~~~~~!!!!!」  私ったら絶叫してしまいましたわ。
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