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「それでは五年二組の同窓会をはじめます。乾杯」
桜の花びらが舞い降るなかはじまった同窓会は盛況だった。五年二組の生徒数は約三十人。二十人近く集まっているので、出席率もなかなかのものだ。
智哉は男連中と輪をつくり、酒やつまみを口にしながら、さっきの体験をふまえた話をした。
桜の樹の下でかんざしを拾ったこと。
直後にキヨさんが現れて、拾ったかんざしを渡したこと。
おそらくクニちゃんはそれを予言していたこと。
「だから、クニちゃんの幽霊が消えるとき、俺の名前を呟いたんやと思うねん。ともや……って」
すると、男連中は興奮気味に口を開いた。
「確かに、ともやって呟いてたもんな」
「小学生のときに、今日のことを予言してたんか。かっけーすぎるやろ」
「やっぱりクニちゃんは、本物の予言者やったんやな」
「阿呆やなかったら、宝くじ当てれたのに」
そうやって盛りあがっている智哉たちに、女連中は冷ややかな目を向けてきた。
明里にいたっては、呆れた顔でこう呟いた。
「阿呆はあんたらのほうやろ。予言者って……小学生か」
その後、同窓会は賑やかに進んでいった。
昔話に花を咲かせていると、男連中のひとりが、智哉にこんな話をした。
「そういや知ってるか? クニちゃんのオカンな、この町に戻ってきてるんやで」
「え、そうなん?」
「去年の年末に戻ってきたんや。今は駅前のスーパーでパートしてるわ」
「へえ……。でも、なんで戻ってきたん? どういう心境の変化がったんやろか?」
「さあ、それは知らん」
智哉は缶ビールを一口飲んでから続けた。
「まあ、でも、戻ってきてよかったな」
なにがよかったのかわからないが、みんなも同意見らしかった。
「そうやな。戻ってきてよかったと思う」
「ほんまによかったよな」
「よかったに決まってる」
「よかった、よかった」
最後に明里も言った。
「うん、よかった」
みんながそう言うのだから、きっとよかったのだろう。
町に戻ってきた母親の住まいには、クニちゃんの仏壇があるそうだ。みんなで線香をあげにいったこともあるという。仏壇に添えられていたクニちゃんの写真は、顔が妙に凛々しくて、阿保のクニちゃんという感じではなかったらしい。
この公園の桜は縁続き桜と言われている。死んだクニちゃんも含めて、みんなとのいい縁が、これからも続いていけばなによりだと思う。
了
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