遅滞

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『結ちゃんだぁ、いつぶりだろう』  律くん、と呟くなり怒りが沸々とこみ上げる。 「どういうつもりなの」  事故にGPS、幾らなんでもやりすぎだ。 『僕じゃないよ、梨乃さんだ』 「貴方が手綱を握りなさいよ」  冷めた声で答えると、第一声は陽気だった律の声がしょぼくれる。 『会の仲間たちにお願いして、飛行機も新幹線も停めたよ。  それでも結ちゃんは来てくれる、僕のことが大好きだから』  好きな気持ちなど微塵も残っちゃいない。 『伊勢湾道に入ったら連絡がほしい、そこで詳しい話しをしよう』  一方的に電話は切れた。結花は学生時代から番号を変えていなかったから、まだ律の手元にも残されていたのだろう。  カーナビには豊田東で伊勢湾道に入ると表示されている。 「向こうの予測よりだいぶ早いんじゃないか」  ラジオが各交通機関で起こったトラブルの、いち早い収束を告げたので、結花は志岐に報告した。 『おお、遅延はしたが問題ない。動き出した』ラジオの伝えた通りと判る。 『さっさと本部に乗り込もう、向こうの警察も動く』  車が一番時間のかかる交通手段だから、新幹線であれば遅延もすぐに巻き返せる。  それより律に、準備の時間を与えたくない。何をしでかすつもりか分からないが、結花の堪忍袋の緒はとっくに切れていた。 「お園さんに相談します」 『国嶋にも連絡を入れておけ』  言われずともその予定だ、ふたつ返事で電話を切る。  国嶋が飛行機に乗り込む前に繋ぎたい。  すると彼もワンコールで出てくれて、釜萢はもうこの国には戻らないつもりかもしれないと告げられた。 「良かったのですか」  一度は相手方のご両親へ、結婚のご挨拶までした間柄()だ。  いいんだよ、とハッキリ国嶋。 『傍にいてやれなくてごめん、俺もすぐ向かうから。  それまで余り無茶するなよ、電話ありがとう』  気遣いの言葉が胸に沁みる、きっとまた多大な心配をかけた。 「蒼ちゃんこそ無理しないでね、いつもありがとう。大好きだよ」  これが死亡フラグにならないことを祈る。  やめろって、と少し間を空けてから、俺もだよ、と国嶋は続けた。 『この一件が片付いたら━━』  結花の頬が紅に染まる。
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