煙いパチ屋

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煙いパチ屋

 結花に異論はなく、黙って頷くと堅い表情で入店した。  バブルの名残りをちらつかせる、古い建物とど派手な電飾。  自動(ドア)が開くと騒々しいジャラジャラとした音が耳を指す中で、結花は辺りを見回りロミを探した。  黒い肌に丸坊主(スキンヘッド)、濃い顔で小太り、小柄でゴリマッチョの男が隣りにいる。  結花には到底聞き取れない言語と、日本語の入り混じった挨拶をされた。  怖い、それがこの人物に対して抱いた第一印象だった。  国嶋が近くの代に座り打ち始めたので、結花は少しだけ安心した。  依存してはいけない、そう思いつつも心は正直だ。  少し会話をしてからふたりは去る、ほっと胸を撫で下ろす結花。  空調が壊れているのか、煙草臭い店内だが結花は深呼吸した。  帰りの車も国嶋が運転してくれる。 「ここ右じゃなかったでしたっけ」  近所なのでカーナビはつけていない。いいんだよ、と国嶋は答えた。 「南米系だったな」  ロミの連れのこと。 「ロミちゃん国際結婚に憧れて、外人とお付き合いしたかったそうです」  それで出来たのがさっきの彼。 「バッキバキにキマっていたけどな」瞳孔が開いていた、ロミも彼も。  シャブ漬けにされ、キメセクしまくっているのだろうか。 「移住先じゃなくてさ、まずは昼職を探せって話しだ」 「ロミちゃんには、出頭を勧めました」  断られたが。  堕ちている自覚はあるのに、このままじゃ駄目と残された理性も叫んでいるのに。  一歩踏み出す勇気がない。 「正体、明かしていないだろうな」  赤信号で停まり顔を見られる。大丈夫、と頷いた。  アノニミティが絡んでいる、あの彼こそ新たな卸し元だ。  モコたちを泳がせるのももう終わり、次のパーティで捕まえる。 「どうして頼らない、結花はこのままで平気なのか」  核心に迫る質問をされた。 「平気に見えますか」  だが質問返しになる、振り向いた結花は涙を堪えていた。  悪い、と国嶋は車を路肩に停め、ハザードランプを点ける。  結花はシートベルトを外すと、後部座席に置いた荷物に手を伸ばし引き寄せた。  その時抱き締められた、暖かい。いつぶりだろう、感傷に浸る。 「どうして頼ってくれない」  同じ質問だ、国嶋の腕は震えていて。 「頼れるわけ、ないじゃないですか。申し訳ない気持ちしかありません」
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