ロミの野望

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ロミの野望

 穴に入って済むなら入りたい、でももう記憶からは消せない。 「ここからは徒歩で」 「いいから、ここにいろ」国嶋の声が枯れている。 「頼むから、もう俺の傍から離れないでくれ。お願いだ」  国嶋が僅かに泣いた、涙とは程遠いイメージの人なのに。  つられて結花も涙を流す。  結局沢山泣いたのは結花だ、自分でも引くほど泣いた。声が枯れた。  もしかすると最初から、こうして大泣きしたかったのかもしれない。  いつの間にか国嶋は落ち着いていて、背中を摩ってくれている。  国嶋の背中に爪を立て、胸元に顔を当て泣いている。  心が洗われたようだった。  あの日からずっと引っ掛かっていた、やりきれない思いや後悔が。  大量の涙に含まれ排出される。 「許してくれるの」  涙声で確認すると、怒ってない、の回答。  結花の後頭部に国嶋は右手を回し、左手は右肩を掴む。  力いっぱい抱き締めて、何度もぎゅっと体温を感じる。 「ハンバーグ、今夜一緒に作らないか」  結花が静かに頷くと、国嶋は更に力を込めた。  痛い、と溢す結花に笑顔が戻っている。お互い笑い合った。  間もなくロミが自首してきて、結花と国嶋で対応した。  詳しい話しを聞くため並んで入室するふたりにロミは、成る程ね、と高笑いした。 「嵌められていたってわけだ私。で、どうするの」  聞けばモコは子作りするからと、薬から綺麗サッパリ足を洗ったそう。 「つまり所持では引っ張れない」  難しい顔をする結花、更にジェイソンとニコラスは帰国。 「私の周りには誰もいない、みんないなくなった。変わってしまったわ」  仲間と過ごした時間は本当に楽しくて、喜びや感謝を共有したはずだった。 「変わったのはロミちゃんなんじゃない」 「俺たちが今引っ張りたいのはアノニミティと、その上位組織だ。  ロミ、知っていること全て話せ」  田中理玖に、南米彼氏、ロミは洗い浚い明かした。  途中声を詰まらせながら、泣きを入れながら。 「金を稼げないなら、東南アジアに売り飛ばすというの。  もう子種もくれないって」  キッカケは平凡な毎日からの脱却。  現実逃避願望から、いつしか日本脱出に目標を挿げ替える。  留学、就職、ビザの取得。  そうだ授かり婚にしよう、こんな安易な思考だった。  最初はモコに続けとばかり、アンディの友達の中から目ぼしい外人を引っ掛けるつもりだった。  薬を使用し既成事実さえ作ってしまえば、結婚も国籍も後からついてくるはずだから。  駄目でもハーフ、きっと可愛い。芸能界に入れ稼がせよう。
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