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週末、いつものようにお泊まり予定で彼の家にやって来た。
「いらっしゃい。エリさん」
「……」
「あれ? どうしたの」
「また『エリさん』っていった」
「あ……えっと、ごめん。中々慣れなくて」
「もう!」
「本当ごめん、エリさ──エリ子」
「──なんて嘘」
「え」
「無理しなくていいわ。祐樹さんは祐樹さんのペースで自然に『エリ子』って呼んでくれるまで待つから」
「……エリちゃん」
彼と正式にお付き合いを始めてから随分経つけれど、彼は未だに私の希望である呼び捨てで呼んでくれることに戸惑っている。
(まぁ、そんなところも可愛いとか思ってしまうのだけれど)
普段はああやって照れてしまって中々呼んではくれないけれど、だからこそセックスの最中に時々肉食な部分を覗かせ『エリ子』と呼ばれると反動で嬉しくて堪らないのかも知れない。
(これこそギャップ萌えだ!)
なんて考えながら秘かに上機嫌になるのだった。
「歌の練習、順調?」
「んー……まぁね。だけどやっぱりあの曲は難し過ぎ」
「上手い下手は関係ないと思うよ。新郎新婦を祝う気持ちがあればどうだって」
「そうはいうけれど、やっぱり上手い方がいいと思う」
「ははっ、そっか」
彼の部屋に置いてある部屋着に着替えてからのまったりタイム。
お茶を淹れてくれた彼がソファに座ったところでテーブルに置いてあった住宅情報誌を手に取った。
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