第二章 赤と白

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中村さんが去ってからしばらく壁際でひとりワインを飲んでいると内野宮係長がやって来た。 「お、島田。なんだ、おまえひとりか?」 「はい。あいにく親しい友人ふたりは新婚と彼氏持ちなので」 「あぁ、藤澤と花井か。仲いいもんな、おまえたち」 係長は私の横にあるビュッフェから色んな料理を取り皿に乗せながら話している。 「係長こそ珍しいですね。いつもこういう会には参加しないのに」 「まぁな。今日は料理目的だ。このホテルの料理が旨いって要に訊いてな。興味本位で参加した」 「かなめって」 「あー……いや、忘れてくれ」 「……」 解り易い誤魔化しをした係長。だけどそのひと言で確信した。 (あの噂、本当だったんだ) それはまことしやかに囁かれていた女子社員たちの噂。その噂とはどうやら内野宮係長は社長一族と縁のある人だということ。 私が勤めるナギノクリーンカンパニーの現社長は奈木野要(なぎのかなめ)という名前だ。その社長が社長に就任する前、一社員として働いていた時に名乗っていた苗字が『内野宮』だった。 それは前社長の息子だと悟られないために使っていた偽名だったけれど、実は『内野宮』姓は母方の苗字らしいのだ。 つまり内野宮係長は現社長の母親のいずれかの親族ということになる。 (内野宮って苗字、珍しいしね) そんな噂が今、私の中で確信に変わったのだ。
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