第二章 赤と白

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(そうか……意外にも係長は優良物件だったか) 確かに係長のことは早い段階で注目していた。だけど直属の上司という立場の人には容易く手が出せない事情がある。関係が良好な時はいいけれど、もし関係がこじれ修羅場とかになったら気まずいことこの上ない。 (う~ん……悩みどころだなぁ) そんなことを考えながら不意に係長の手元のお皿に目が行った。 「係長、お皿が茶色いです」 「は?」 「お肉ばっかり」 「あぁ。俺、肉食だから」 「……」 (食の好み、合ってる) 「そういう島田は食べないのか? 酒ばかり飲んでいたら悪酔いするぞ」 「そうですね」 私は持っていたワイングラスを置き、係長のお皿に乗っているローストビーフを徐につまんで口に放り投げた。 「おい、おまえ俺の肉を──っていうか、手掴みなんて行儀悪いぞ!」 「すみません。行儀のなっていない肉食女子で」 「開き直るな。ったく……ちゃんと自分の分は自分で取って喰え」 「係長のオススメでお願いします」 「は? なんで俺が」 「そういうのありませんか? 他人にお任せで取ってもらったものが食べたいってこと」 「俺はそういうのはない。食べたいものは自分で選んで取って食べる」 「……」 (なーんか係長らしいな) 仕事から離れて係長と砕けて話したのはこれが初めてだった。 極力係長とは近くなり過ぎないように心の何処かで防波堤を築いていたからかも知れない。
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