第二章 赤と白

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(問題は寝ている係長が勃つかどうか……) 係長の着ているシャツを(はだ)けさせながらそんな心配をしていると、突然眠っている筈の係長の腕が動き、私の頭を引き寄せた。 (っ、起きた?!) 一瞬冷汗が背中を伝って行ったけれど、抱えられた頭が係長の胸板に付けられてから数秒、なんの動きもなかった。 (……寝呆けていただけ?) 少し残念に思いながらもホッと息を吐いた瞬間、小さく「……ぃ……くみ」と聞こえた。 微かに聞こえた係長の呟き。それは私がよく知る名前だった。 (……えー……っと) しばしの思考停止後、のったりとした動きで係長の腕の中から這い出た。そして係長にかけ布団を掛け、そのまま部屋を出た。 1DKの部屋で他に行くところはなく、仕方がなくキッチンの隅っこに体育座りしてうずくまった。 「……」 『……ぃ……くみ』 先ほど係長が漏らした寝言。 (訊いてはいけないことを訊いてしまった) まさか係長の口から友だちの名前が出るとは思わなかった。 (それってつまり係長が郁美のことを──) そんな素振りは全くなかったから今、私は物凄く戸惑っている。まるで知ってはいけない秘密を知ってしまったような気分だ。でも── (……そっか) 係長も叶わぬ恋をしていたのだと思うと少し前まで係長に対して感じていた印象が大きく変わったような気がした。
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