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何か言いたそうに見つめるから私から話しかけてみた。
「どうかしたんですか、係長」
「あ、あぁ……。えっと……その、俺、おまえに何もしていない、よな?」
「は?」
「その……酔うと何も覚えていなくて」
「……」
「もしかして介抱してくれたおまえに俺はよからぬことを──」
「……」
(あぁ、そういう心配をしているのか)
少し顔を赤らめながらポツポツと話すその様子が妙に可愛いくてついからかいたくなる。
「そうですか……覚えていないんですね」
「はっ?! な、何を」
「私が泣いて叫んで『止めて』といっても聞いてくれなくて……」
「……あ……ま、まさか……俺……おまえを、無理矢理──」
「──なぁんて、冗談です」
「?!」
余りにも解り易く狼狽えてしまったからここらで止めようとネタばらし。真っ青な顔を見せながら「お……おまえなぁ~~~言っていい冗談と悪い冗談があるぞ!」なんていう言葉を訊いていたら自然と私の中で(あぁ、係長はないな)なんて思えてしまった。
その日は休日だったので慌てて出勤する必要はなかった。
ほんの少しだけ気まずい空気が私たちの間で漂ったけれど、私の中で係長をそういう対象から排除したことにより疚しい気持ちはなくなっていた。
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