第一章 肉と魚

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ランチに選んだ生姜焼き定食を食べながら現在新婚旅行に旅立っている友人の話で盛り上がる。 郁美は私と美佳の三人で行った合コンで知り合った真戸光輔(まとこうすけ)と一年の交際を経て先日結婚した。そして今はハワイへ新婚旅行中だ。 「郁美、元気かな」 「元気でしょ。昨日の夜だってLIME来てたじゃない」 「そうだけどさー。なぁんか心配しちゃうんだよね、あの子」 「なんで」 「だってポヤンとしているじゃない。可愛い小動物って感じで。特に日本人って実年齢より幼く見えるっていうし。悪い外国人に連れ去られたらって思うと気が気じゃなくて!」 「あのねぇ、郁美には真戸さんがいるでしょう? 頼もしい旦那さんが」 「そうだけど、真戸さんもなんか心配だよ」 「あの人は郁美に関する事だけは信頼出来るよ。絶対に目を離さない」 「……いわれてみればそっか」 なんて郁美の話で盛り上がっている美佳もその合コンで知り合った三好拓也(みよしたくや)と結婚前提の交際を続けている。 友人ふたりが幸せな恋愛をして、そして共にハッピーエンドを迎えたのは喜ばしいことだ。 (まぁ……所詮他人事だからかな) 私自身にはまだまだ縁のない話に羨ましいと思いながらも、既に人生の伴侶を得た友人たちにまだ時期尚早なんじゃないか──なんて気持ちもあるのだった。 「そういえばエリ子はどうなってんの?」 「ん?」 「五十嵐さんと」 「あぁ……彼ね」 「エリ子って全然自分の恋バナ、しないよね」 「話す程の内容もないからね」 「何もないってこと、ないでしょう?」 「いや、本当に何もないよ。ただセックスしているだけだもん」 「ちょ、あんた、昼間の社食で何いってんの」 「美佳が訊くからだよ。ね? 面白くないでしょう?」 「そればっかりじゃないでしょう? デートしたり、デートしたり」 「デートばかりね。ん……そういうのはない、かなぁ」 「は? 今まで一回も?!」 「うん。大抵相手の家に行ってヤることヤッて終わり」 「……エリ子さん、あなた、わたし以上に肉食でしたか」 「ふははは、知らなかったでしょう」 面白可笑しく茶化したけれど、今、美佳に話した私はまだまだ本当の私なんかじゃなかった。
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