第一章 肉と魚

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「仕事、忙しいんですか?」 「まぁね。でも忙しい方が好きなの、わたし」 「末永さんらしいですね。私は暇な方がいいですけど」 「そんなこといって本当は島田さん、仕事好きでしょう?」 「嫌いではないですね。この会社は働き甲斐がありますから」 「そうよね、わたしもそう思っている。だから少しでも貢献して頑張りたいと思っちゃうのよね」 にこやかにそう話す彼女はアラサーとは思えないほど若々しく、美しかった。 (仕事に生きる女ってやっぱり綺麗なのかな) 偏見かも知れないけれど、何故か彼女を見ているとそう思わずにはいられなかった。 軽い世間話をして末永さんと別れた私はしばらくぼんやりとしてしまった。 (末永さんはちゃんとした未来像があるんだな) 少しでも条件のいい男を見つけて、漁って付き合うだけでいいという私とは雲泥の差だ。 別に末永さんみたいにキャリアウーマンになりたいわけじゃない。かといって郁美みたいに早々に結婚したいわけでもない。 今が楽しければいい快楽主義者とでもいえばいいのか。 ひとりの男に縛られたくない。だからといって誰とでも構わず付き合うというわけでもない。付き合う相手はかなり吟味している。 結婚するまでにひとりでも多くの男と付き合って、そしてもう食べ飽きて満腹になったところで収まる処に収まればいいかとか漠然と思っている。 それは一緒の恋愛シミュレーションゲームのようだ。 【男にだらしがない女】──そんなキャッチフレーズがお似合いな私だった。
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