第一章 肉と魚

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更衣室を出る頃に入れ替わりで美佳がやって来た。 「あ、エリ子、帰るの?」 「うん。美佳は遅いね」 「午後からの作業が結構時間かかってさ。もうクタクタァ~~~」 「お疲れ様。じゃあパァッと飲みに行かない?」 「あーごめん! 今日も拓也さんと約束してるの」 「あぁ、そっか。彼氏持ちを誘ったらダメか」 「エリ子だって飲みに行く相手くらいいるでしょう?」 「……まぁね」 「お互い楽しい夜を過ごそうよ。んじゃあね~」 「うん、バイバイ」 そうして私はひとり会社を後にした。 (楽しい夜を──か……) 美佳との会話を反芻しながら携帯を手にした。心当たりの何人かにLIMEをしてみるけれど生憎誰ひとり捕まらなかった。 (はぁ……仕方がない) 最後に残った人に電話した。数コールで出た相手に「今、何処にいるの?」と訊くと『家』と答えた。 (相変わらず帰宅が早いなぁ) などと思いながら「今から行ってもいい?」と続けると『いいよ』といってくれた。 彼はいつでもOKをくれる。私からの誘いを断ったことはない。こういう面では私の中では既に都合のいい男という位置にある人だった。 (いい人なんだけど……ね) 私にとってはいい人過ぎて、優し過ぎて、都合良過ぎて……つまらない相手になってしまっていた。 でもだからといって今のところ別れるつもりはない。つまらなくても、刺激が無くても、何故か居心地だけはよかった。 そんな酷いことを考えながら脚は彼のマンションに向かって歩き出していた。
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