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彼の住むマンションは会社から近かった。徒歩10分もかからない。それを知った時は(平日でも泊って行ける)なんて思いを抱いたものだ。
インターホンを押せばすぐに玄関ドアが開いた。
「いらっしゃい、エリさん」
「こんばんは、祐樹さん」
出迎えてくれた彼に挨拶をしてから勝手知ったる家といわんばかりに遠慮なしに部屋の中に上がった。するとキッチンからいい匂いがした。
「ご飯作っていたの?」
「うん。あ、エリさんも食べる?」
「メニューは?」
「焼き魚と揚げ出し豆腐」
「相変わらず魚なんだね」
「好きだからね」
「そうだね。でも私は肉が好き。肉が食べたい」
「肉かぁ……あいにく鶏のささ身しかないけど」
「鶏かぁ……仕方がないな、それでいいや」
「じゃあいつもの作るね」
「ん」
そう言いながら彼はキッチンに戻り、私はリビングのソファにドカッと座り込んだ。
彼、五十嵐祐樹は一年前、美佳と郁美の三人で行った合コンで知り合った人だ。
大人しそうな男というのが第一印象だったけれど、共通の趣味の話で思いのほか盛り上がり、いいな、もっと話したいなという気持ちから頻繁に連絡を取りあっていた。
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