第一章 肉と魚

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営業一課のクリーンスタッフのくせに体は線が細く色白。同じ課の三好さんや真戸さんとは全く雰囲気が違っていて、どちらかといえば私がいるような事務職の方が向いている感じだ。 前に一度『なんで営業やっているの?』と訊いたら『人様の家に伺うのが好きだから』と訳の解らない返答をされた。 それだったら顧客確保がメインの営業二課でもよかったのにと思ったけれど、一課メインの力仕事は苦にならないと言った。 そんな見かけと中身が若干ズレているところも面白いと思ったけれど、それよりも主に彼のことが好ましいと思うところが── 「あ、エリさん。本棚に【覇王の番人】があるよ」 「え、本当?!」 五十嵐さんの言葉に激しく反応して本棚に駆け寄った。 歴史好きの歴女。五十嵐さんとはそんな歴史の話で盛り上がれた。 あの日、合コンの席で『五十嵐さんが好きな戦国武将って誰ですか?』と訊いて返って来た返答が『明智光秀』だった。それを訊いて『嘘! 私と一緒です!』なんて感激したものだ。 普通の人は大抵、織田信長や伊達政宗、徳川家康辺りをいうだろう。でも私の好きな明智光秀と言ってくれた人は五十嵐さんが初めてだった。 それから明智光秀についての話で大層盛り上がってしまった。 余りにも感性が似過ぎていて、話していても楽しくて離れ難くなってしまっていた。 時間が出来るとふたりで会っては明智光秀の話をしたり、他にも色んな武将の話や時代考証、様々な歴史的ミステリーの考察など話すことは無限にあった。
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