俺様な彼と俺の事情

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「茅草」  馴染みのある穏やかな声に振り返る。低いが低すぎない美声の主は、少女漫画のヒーローみたいだと学内外の女子から絶大な人気を誇るクールかつ穏やかな微笑を湛えて――茶化して言えば、今日も貴公子スマイルを貼りつけてていた。 「帰り、寄るから」  近づいてくることなく俺からの返事を待つことすらなく、淡々と一方的に伝えて廊下を反対方向へ歩み去ってゆく。茶髪の金髪の中間みたいな薄い色の髪がさらさらと揺れていた。  海吏が見えなくなった途端、隣の藤川に肩を組まれ、耳打ちされる。 「最近毎日じゃね? お前らってそんな仲良かったっけ。ってかあいつ何喋んの?」  たしかに俺らは正反対に見えるよな、と他人事のように思った。 「あんま喋んねえよ。課題やったり……時間になったら帰ってく感じ」  課題をやったり、ベッドでヤったり。後者は伏せておく。男同士とかキモいし。  じゃあなんで、って話だけど、それは別として。 「ふーん…。わっかんねえなあ…」 「住む世界が、ってやつだろ。俺もあいつの考えてることなんてわかんねえよ。じゃ、またな」  ピラミッドの象形文字を予備知識無しで読もうとしているみたいに奇っ怪な顔で廊下の先を見つめる藤川の腕を払いのける。もうそこに海吏はいない。  藤川から軽く挨拶が返ってきたのを聞き流して校門へ向かえば、女子たちがきゃあきゃあと騒ぎながら声をかけてきた。手を振って応えておく。  切れ長のつり目、細い眉、通った鼻梁に薄い唇、長身で細身ながらも適度に筋肉がついていて男らしく骨や筋が出る体格……と、文字に起こせば俺と海吏はほぼ同じだ。なのに印象はまるで違う。あっちが貴族ならこっちは平民、あっちが御曹司ならこっちは叩き上げの職人、といった具合に、向こうには品があって近寄りがたいが、俺は親しみやすいらしい。お互い女子からの人気は、自分で言うが、絶大だ。  なのに、どうしてかねえ。
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