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「セックスしよ」
「は?」
うだるような暑さに、薄いシャツを伝う汗。壊れたエアコン。死期間近の弱々しい回転数で大義そうにえっちらおっちら回る扇風機。畳に寝そべって涼もうと試みる俺に、折りたたみ式の机で真面目に課題を片付けていた海吏は軽蔑の目を投げてよこした。
「マジになるなって。ほら、冗談」
乾いた笑いで否定する。まともに話すには喉が渇いていた。
そんな俺に海吏は溜息をひとつついて、グラスを床へ置いた。すっかり氷も溶け切って、汗もかききったグラス。数時間前にはスポーツドリンクと申し訳程度の氷が入っていたのに、今は底にうっすらとぬるい水が張るだけだ。
そんなお湯目前の水でも沸いた頭には冷えて感じるだろうとの皮肉が透けて見えた。
そこで終わったはずだった。暇を持て余した男子大学生同士の、暑さにやられて沸いた頭から流れ出た与太話で終わったはずだった。
なのにどうして俺は、今日もこいつと寝ているのだろう……なんて、すべては俺があの日ふざけたせいだ。
「さっさと…イけって…!」
ボロい畳の一室に充満する汗の香り。干したばかりでおひさまの匂いがしていたはずの布団には、また青臭い体液が染み込んでしまった。俺はシーツを後ろ手に握りしめ、ゆっくりと腰を下ろす。
「こんな生ぬるくてイけるかよ。ほらもっと腰上げろ。んで落とせ、勢いよく」
男一人を乗せて軽々と突き上げてくる海吏は、いつも通りの澄ました笑みにわずかな汗をにじませている。
こいつも少しは気持ちがいいのか、なんて驚きに浸る暇は毎回与えてもらえない。
「ちょっ…まっ…今動かすな…!」
「ほら早く。あと五回追加するぞ」
「無理っ…!」
これ以上深くまで入れたら…。想像するだけで寒気が背筋を駆け上った。
海吏の顔に似合わずたくましい身体へ跨って切っ先を宛てがう、どころか、半分ほどは体内におさめているが、これ以上自分で入れるのは…。
内壁が削れているのを既に感じているのに、深さも、回数も、これ以上はだめだ。そんなことしたら俺がどうなるか…。もう想像だけでだめだって、知ってるくせに、わかっていて言うあたりが俺様ドS。鬼畜。馬鹿。馬鹿海吏。
「茅草に任せてたら一生終わらないな」
「勘弁、してくれ…」
一生終わんねえって、一生このままってか。つながったまま? 俺が上で? …俺が上なところだけはいいけど、でももう何時間入ってると思ってんだ。そろそろ抜け。
とは言えない。口を開けば違う声が出るから。
それに……認めるのは癪だが、本心から抜いてほしいわけではないから。
「ほら替われ」
頭をポンポンと撫でられて、軽くキスしてからの優しいはにかみ。不覚にもときめいてしまった敗北感。
替わるといっても攻守交代してもらえるわけではない。上下が入れ替わるだけ。ベッドに寝かされて、脚を割られて、一瞬たりとも抜かれなかったモノを、ついに全部、突き込まれてしまう。
「うわ、ちょっ…あっ!」
「やっぱいいよ、茅草」
あのとき俺を軽蔑した海吏はもういない。軽蔑…も、していなかったのかも。
いるのは今もあの日も変わらず、俺の片脚を抱いて奥を穿とうとしてくる、人当たりのよさそうな顔して鬼畜な海吏だけだ。
顔だけは優男な海吏は、汗で湿ってもさらさらな細い髪を掻き上げた。浮き上がる前鋸筋。小円筋までわかった。それほど自分がこいつに釘付けなことも、悲しいかな自覚した。舌なめずりする海吏から、同い年とは思えぬ色気が放出される。
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