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――その頃大志は、第一工場の奥で近藤に後藤田への不満をぶちまけていた。
「一体なんなんですかあの人? 絶対あの故障だって俺のせいにする気じゃないですか。やってられないですよ!」
「あの人にも困ったもんだよなぁ」
いつになく荒ぶる大志に、近藤は宥めるので精いっぱいだった。第一工場のチームリーダーとはいえ、ひと回り以上年下の近藤にとっても後藤田は目の上のたんこぶのような存在だった。
「実は俺も、何年か前のエイプリルフールに嵌められた事があるんだよ」
「近藤さんもですか?」
「ああ。その日は遅番のはずだったのに、シフト変わってるぞ。なんで来ないんだって大騒ぎになってる、って後藤田さんから電話来てさ。慌てて飛んで来てみたら、案の定ってわけさ。寝不足だし無駄足だしで、さんざんな目に遭ったよ」
「本気でどうしようもない人ですね! 一回みんなで言ってやった方がいいんじゃないですか?」
「そう目くじら立てるなよ。あの人もああ見えて……」
――だ、誰かぁっ!
悲鳴らしきものが聞こえてきたのは、ちょうどその時だった。
二人とも無言になって、顔を見合わせる。
「助けてくれぇっ! 誰かっ! 助けてーーっ!」
今度こそ間違いなく、救けを求める声が聞こえた。しかしすぐに後藤田の声だと気づいた二人は、
「聞きました、今の? 絶対あれ、また嵌めようとしてますよ」
「よくもまぁ性懲りもなくやるもんだよ」
鼻白むばかりで意に介す様子はない。
工場内にいる誰一人として駆け付ける者のないまますぐに後藤田の悲鳴は止み、やがて第一工場は機械音だけが鳴り響く静けさを取り戻した。
〈了〉
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