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大志が去ったのを見届けると、後藤田は急に表情を引き締めて機械と向き直った。
ぐるぐるとライトをあてながら機械の周りを見て回るが、少なくとも外観に問題はないようだ。
「ちっ、余計な事をしてくれたもんだぜ」
プラグを抜いたのは大志の推察通り後藤田のイタズラだったが、抜き差ししただけで安全装置が作動するのはあり得ない。プラグの抜き差しがきっかけになったとすると、電気系統になんらかの異常でも生じたのか。
完全に自分の事を棚に上げて、後藤田は舌打ちした。パーツの故障なら新しい物を作って交換すれば済むが、人間にとっての血管にあたる電気の問題となると原因を究明するだけでも手間だ。
「なんか引っ掛かってるだけならいいんだけどな」
祈るような気持ちで、よっこいしょとラインの上に上がる。製品となるビニールに踏み跡をつけないよう気を付けながら、コンベアのローラーやネジの具合を腰を屈めて慎重に確認していく。
その時である。
「痛っ」
何かに足を引っかけて、後藤田はコンベアの上に尻もちをついた。途端、ぐぉんぐぉんと唸りを上げて、ラインが動き始めたのだ。
後藤田は青ざめた。点検時は機械の電源を確実に落とすという基本中の基本を、完全に失念していた。
慌てて立ち上がろうとするが、何者かに押さえつけられているかのように身動きが取れない。見ればコンベアのローラーに作業着の裾が食い込んでいた。
「だ、誰かっ!」
咄嗟に助けを求めつつ、顔を上げた後藤田が目にしたものは、すぐ目の前まで迫った裁断機の鋭い刃だった。
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