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第三章・砂漠の国で 1ー②
『アッーーーーシュ~~っ!』
人がアッシュに、突っ込むようにして激突して来た。
『お帰り~!お土産!お土産はっ?』
『毎回、お土産をねだるのを止めてくれませんか?私は日本に仕事で行ってるんですよ。コウジ様のお土産を買いに、日本に行ってるのではありません』
光司は、アッシュの胴体を締め付けるようにして、しがみ付いた。
『いいじゃんかよ!ケチ!俺は故郷なのに、行きたくても行けねーんだから!』
『ちゃんと買ってきましたよ。後でお渡しします。今回はミナトに選んで貰ったんですよ。だから御礼を言って下さいね』
湊はそれが光司だと知り、まじまじと見入った。
茶色の大きな瞳は、こぼれ落ちんばかりで。
顔は信じられない位に小顔で、175センチある湊より頭1つ分は小さくて、小さな少女のようだ。
Tシャツとジーンズも、服が泳ぐ程に細くて、触れれば折れそうな儚さがあった。
「湊!湊!スンゲー楽しみに待ってたんだ!俺、気兼ねなく日本語を喋れるなんて、超~嬉しい~!」
その愛らしい顔から想像出来ないような、庶民的な喋り口調に、湊はヴァリューカに来て一番驚愕した。
『こ、光司様。初めマシテ。篠崎湊デス。よろしくお願い致シマス……』
「あ~!ダメ!ダメ!アラビア語は絶対にダメ!湊は俺には絶対に日本語で喋って!それと、様付けも無し!敬語もなし!」
「えぇ?そ、それは無理です!日本語は構いませんけど、様付けと敬語は……。わ、私が怒られます~!」
「どうせアッシュしか、日本語は分かんねーよ!アッシュの日本語って、固くてウザいの!湊は普通に喋って!これ、命令!」
湊はアッシュに助けを求めるように見つめた。
「ミナト、コウジ様の言う通りにして差し上げて下さい。貴方はコウジ様の癒しになる事も、仕事のうちですから」
「わ、分かった。こ、光司?そしたら普通にいくぞ?」
「おお!湊ぉ!俺、スゴく嬉しい!ありがとー!」
光司は湊に飛び付くようにして、抱き付いた。
何て自分の気持ちに正直な方なのか。
こんなに感情をストレートに表現出来る光司だからこそ、国王に溺愛されるのだろう。
アッシュが虜になるのも分かる気がした。
「コウジ様、忘れてますよ?ミナトにお土産の御礼。ちゃんと仰って下さい」
「……アッシュ。別に構わないよ……」
アッシュは、主人に対しても敬語だが上から発言だった。
「あ、湊!ありがとーな!後で一緒にお土産、開いて?」
「こ、光司が気に入ってくれたら良いんだけど……」
「大丈夫!大丈夫!超、楽しみ~!」
横で見ていたリエカが、光司の顔を覗き込んだ。
『コウジ、ミナトのお陰で毎日が楽しくなりそうね?アブドルとエレナイ以外とは遊べなかったものね?』
『リエカさん!俺、本当にめちゃめちゃ嬉しい!湊、可愛いくて更に嬉しい!』
「可愛いのは光司だよ」
光司は湊を連れだって城を案内し始める。
そうして光司への一番の『お土産』は、湊になった。
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