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第二章・秋冬 1ー④
アッシュのホテルに帰る訳にはいかなかったので、電車が走っている時間に店を出た。
実家までは倒れる訳にはいかない。
「湊……大丈夫かよ?お前、酒弱いのに結構、飲んでたぞ?」
「何とか帰るよ。今日は愚痴聞いてくれてありがとう」
「なぁ……マジで心配だから、ホテル、泊まらねぇ?」
自分に好意を持ってくれている真悟とホテルに泊まるのは、真悟に対して申し訳無かった。
「いや、実家に帰るよ」
頑なな湊の腰を、真悟は抱き寄せる。
そして湊の唇に、奪うようにして口付けた。
アルコールで頭が回らなくなっている湊は、咄嗟に何をされているのか理解出来なかった。
真悟の舌が自らの舌に絡んで来るのを感じて、キスされている現実を知った。
「うんぅ!しん……ごっ!ダメ……、やめっ……」
真悟が唇から離れて、湊の耳の中に舌を差し込んで来た。
「あっ……、あぁっ!やぁっ!」
「チックショウ!色っぽくなりやがって!俺がしてやるつもりだったのによ!」
怒りに任せて、真悟は湊の首筋に歯を立て、吸い上げた。
自分はアッシュでないと駄目なのだ。
アッシュのように思いが通じないからといって、その制欲の捌け口を他に求める事は出来ない。
無欲だった自分が、これ程に貪欲になるとは思わなかった。
自分の欲しいものは、決して手に入らない。
求めても無駄なのに、その気持ちを抑えられなかった。
湊は真悟の体を引き離した。
「ゴメンな。真悟。本当にダメなんだ。いっそ、俺が誰かと簡単に遊べる性格なら、さっさと次に行けたのにな」
「湊……」
「……電車、無くなるから。また来週な」
湊は裏道から出て、駅に向かう。
ポケットから携帯を取り出して見つめるも、当分は電源を入れる事はないだろうと思った。
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