第三章・砂漠の国で 1ー③

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第三章・砂漠の国で 1ー③

アッシュと湊は、常に主と同行出来るように、宮殿の一角に部屋を与えられている。 湊だけの部屋も与えられたが、アッシュがそれを拒否して、自らの部屋と同室にした。 その部屋は、これが1人部屋かと言う程に広く、日本で住んでいたあの高級ホテルより更に倍の面積はあった。 「もう、俺、何見ても驚かないわ。段々、麻痺してきたぞ。金銭感覚が。忘れそう……チロルチョコ」 「チロルチョコって何ですか?」 「庶民の象徴のお菓子。光司に買って来たから、後であげるよ」 光司へのお土産は、夕食後に渡す約束をしたが、とにかくザ・日本というようなものばかり買い集め、段ボール一杯に詰め込んだ。 高級なものはアッシュが散々、持ち帰っていたようなので、庶民的なものばかりを集めた。 夕食は、スウェイドと光司とアッシュと湊の四人で取る事になった。 流石に国王の前なので、湊はスーツかヴァリューカの民族衣装にするかで悩んでいた。 「う~ん……どっちにしようかな~。民族衣装は着なれないから、粗相しそうだし……スーツかな?」 「着物にして下さい」 「き、着物?」 「母上様に着付けを習って来られましたよね?」 アッシュはクローゼットから華やかな青い着物を出して来た。 「聞くの怖いけど、スゴい高い着物だよな?コレ……」 「オオシマツムギというらしいです」 「……聞くんじゃなかった」 絶対に食事を溢せない、恐ろしい金額だろう想像は出来た。 しかし、国王とは初対面で何を着たら良いか分からなかったので、アッシュの言うに従った。 「国王は日本通なのか?」 「いえ。特にそういう訳ではないですが」 「え?じゃあ、何で?」 「私が見たかったのと、脱がせる楽しみを味わいたかったので」 「……スーツにしようかな……俺」 自らの失言を慌てて撤回し、アッシュは湊に着物を合わせた。 着物を着ながら湊はふと、ひょっとしたらアッシュは光司に着せたかったのでは、と思った。 光司に会ってみて、その天真爛漫な様に心惹かれる気持ちが分かった。 そして益々、平凡な自分の姿に、アッシュが言う程の魅力がどこにあるのか理解に苦しむ。 湊は自分に自信が無かった。 「素敵ですよ……ミナト」 アッシュは、湊の腰を引き寄せてキスをした。 そのまま食卓のある部屋へ連れて行かれた。 湊とアッシュが席に付いて直ぐに、スウェイドと光司が入って来た。 光司はガンドゥーラ(長衣)を着てはいたが、グトゥラ(頭のスカーフ)は付けていない。 その後ろからスウェイドが入って来たが、あまりの存在感に湊は絶句した。 「で……で……デカい……」 スウェイドの身長はに2メートル近くあり、あまりの威圧感に思わず口に出てしまう。 その面差しは神がかっていて、神話に出て来てもおかしくないような美貌だった。 これは、アッシュが自分の方が地味だと言っていたが、そういう次元ではない。 [完璧な人間]というものがあるとしたら、スウェイドのような風貌を言うのだ。 『スウェイド様。こちらが、コウジ様の側近を務めますミナト・シノザキです』 『は、初めマシテ。どうぞよろしくお願い致シマス』 上からの視線が恐ろしい程に切れ上がり、湊は顔を上げる事が出来なかった。 『コレが、お前のオンナか』 『運命の相手に廻り合いました』 『フン……。平凡だな。十人並みだ』 俺様だ~!見た目のままの俺様だ~!と、湊は心の中で叫んだ。 こんな高飛車な物言いは、この顔と地位が無ければ許されないだろうが、スウェイドに言われたら不思議と腹が立たない。 すると、横から光司がスウェイドのスネに蹴りを入れていた。 『湊に謝れ!この馬鹿野郎!失礼だろ!』 「こ、光司。別に構わないから……」 「湊!許してんなよ!初対面の人に失礼なんだよ!スウェイドは!」 光司は謝る素振りを見せないスウェイドを蹴り続けた。 それは象に楯突く蟻のようで、スウェイドには毛ほどの痛みも与えていなかった。 『……悪かった……』 スウェイドから謝罪の言葉が出た。 湊の肩をアッシュが抱き寄せて、耳元で囁いた。 「……ね?コウジ様は凄い方でしょう?スウェイド様に意見出来るのは、コウジ様だけなんですよ」
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