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遠い昔の思い出のようになっていることが有る。とても綺麗な桜を眺めていた。隣にはとても好きな人が居る。
僕は暖かくなるこの季節になるとこんなことを憶えている。今ではそれが現実なのかそれとも夢だったのかもわからない。そのくらいにぼんやりした事柄になっているのに忘れられない。忘れられない記憶。忘れちゃダメな記憶なのか。
それにあの隣に居る好きな人のことが誰なのか全然記憶にない。だから消えない思い出になっているのかもしれない。あの子はとても素敵だったから。
「誰なのかな」
呟いてみても別に答えが見つかる訳じゃない。
授業も残り少ない高校一年の教室からまだ咲いてない桜を眺めて思い出してみる。テレビのニュースとかではもう桜がいつ開花するかの特集まである。だけど、今年は卒業シーズンには咲かない見込み。
「よう! なんだよ。朝から黄昏ちゃってるのかい?」
かなり陽気な声が聞こえるのと一緒に僕のあたまが叩かれた痛みを覚えた。振り返ると高校に入ってから知り合った女の子が居る。ジトっと見上げて「いちいち叩かないと気が済まないのか?」と僕からも叩かれたことは除いて親しく話す。
彼女とは単に席が近かったから親しくなっただけ。なんとなく彼女が入学して直ぐに声かけてきたのを覚えているが、そのくらいでこんなに親しくなるなんて思ってなかった。でも、気が付けば遠くから寮で暮らし中学の友人もいないこの学校で、友人なのはこの女の子くらい。
ニッコリと笑っている彼女は「オウ! 君をおちょくらないと一日がはじまらないんだ!」なんて傍若無人なことを言う。
本当になんてこんなに親しいのだろう。僕には疑問だ。恋なんかじゃないのは「そんなんだから彼氏がいないんだ」という僕の言葉で表れている。
僕の女の子の好みはおしとやかな美人。これまでに好きになった子もずっとそんな人で、こんなガサツで生意気なお喋りでいつもニコニコしているのとは反対。凛として前を向く瞳が美しい人を望んで、なんならスポーツ好きでショートカットでジャージが似合うのは女ですらない。
「残念ながら人気はあるんだ。こう見えても! だけど、あたしには思っている人が居る。それは昔から」
ニターっと笑って勝ち誇っているみたいな笑顔を僕の前の席に座って反対側を向いて送っている。彼女の席だけど「それなら俺なんか構わないで告白しろよ」とこっちを見るなとばかりに手を振ってみるが、通用しないだろう。いつもだから。
もちろんまだ楽しそうに「なら告白しよーかなー?」なんて言うと、さっき僕が眺めていた桜のほうを眺めて「あの、桜が咲いたらね」と語る。
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