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「頼まれずとも埋葬するつもりだった。だが、それきりというのも味気ない」 「では、四十九日も頼む」  はは、と明椿林は破顔する。 「今度は、透けていない君と会いたいものだな」 「透けていない?」  晨羅寒はつられて笑いながら首をかしげた。 「次の世があるというのならば、そのときはまた、君と……」  来世を見ているらしい。  彼はどうやらそれを、信じたいらしいのだ。  そうやって、別れの痛みを慰めながら、歩いてきたというのだろうか。  なんて真っ直ぐな声だろうか。  そしてなんとも、脆いものか。 「信じているのか」 「くだらないと思うだろう」  差し出す剣の鍔に、明椿林が応じるように筆を取り出した。  乾いた音がコツンと、重なり合う。鍔と筆の交わる音は、しかし、金に勝るほど堅く結びついたように思われた。 「忘れるなよ、明椿林」 ――――――  濛々と立ちこめる塵煙の中、ギラリと光るものがある。  臥せた木が岩のように横たわり、厳めしく湾曲した枝の間からのぞく、爛々とした双眸であった。  力強い眼差しは、土煙にかすむ関所を真っ直ぐに捕らえていた。その奥に、影深い李西の都が朧気に揺れている。  春永国の滅亡から遡ること四年前のことである。  明椿林と晨羅寒がともに湯殿を後にし、崩れた宮殿の二階にさしかかったとき、土と化した物語が再び芽吹いたのだった。  開いた花の笑みに誘われて、鱗粉の舞う記憶の世界に入っていくと、風は蕭々と寂しげな音をたて、荒れ果てた砂地を低く這っていった。  淀みなく流れていく砂の地に、小さな影が遮る。  黒々と聳えた関所の上を、ふわりと舞い上がる鷹の影であった。  ――と、その目が光る。  国境を越えようとする人影に気がついた。翼が風を掻いて白く翻り、天空を切り裂く甲高い声が響く。一斉に弓を構える兵士たちに緊張が走った。  鷹はすぐさま男の頭上をめがけて急降下した。  砂丘に足を取られながらも必死に走る男に、鋭い嘴が迫る。あっと言う間もないように思われた。その嘴が肉を捕らえたと思われたのだ。しかし、そこで俄に旋風がおこり、鷹の行く手は阻まれた。慌てて離脱する鷹に、兵士の狙い澄ました矢が放たれる。
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