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 若将軍、央王は木の影に潜み、李西を見据えていた。  懐と背に抱えた袋包みを手に触れて、嵐がやってくるのをじっと待っている。 「砂丘が姿を変えようと、星の位置は変わりません」  呟くのは、国境を越えてやってきた男、盛である。  一等星の位置を瞼の裏にやきつけて、身体は真っ直ぐに国境へ向かう。  二人はじりじりと砂の上を歩いてきた。  砂丘の影に身を隠し、獣の巣穴に息を潜め、月明かりに照らされた関所をのぞむ。  火の粉を散らしてなびく松明が、見張りとともに闇の中に消えていくのを見ると、盛は勇み出た。 「今です――!」  はっとして砂丘を駆け下り、央は一目散に駆け走る。その後ろに、足を引きずる盛が続いた。  星月夜は砂にのみ込まれ、赤茶けた風が襲いかかる。  央は飛来する礫の痛みに顔を伏せ、息苦しさに耐えかねて足をとめた。その背を、盛の熱い掌が力強く押す。 「いきなされ! 央王! いきなされ……!」  凄まじい風の唸りのように思われた。振り絞った老人の絶叫に、央はゾッと恐怖した。  骨の浮き上がった身体から吐き出される吐息や声が、まるで断末魔の叫びのようだった。  男の細い足が、吹き荒れる追い風の中、央王を支えていた。  絶え絶えに続く息づかいが次第にきれそうなほどの細さになると、嵐が抜け、央王の足は国境を渡りきる。  盛は――、と背後を振り返れば、故郷の地を手前にして倒れていた。 助け起こしにいかなくてはと、慌てて引き返す央王の頭上に、無数の松明の灯りが掲げられた。 「――!」  咄嗟に地べたに身を伏せ、転がるように影へと逃げ込む。  その行く手を、降り注ぐ弓矢が追いかけた。  盛はぐったりと横たわったまま起き上がらなかった。一矢が彼の身体を貫こうと、央王の耳を舐めたあの、悍ましいような絶叫はきこえてこなかった。  盛の腹の下に燻る闇が、央王をのみ込もうとするように広がっていき、その薄黒い闇から逃れようと、振り切って駆け出した。 「逃したぞ――!」  追っ手の声に舌打ちをのみ込み、央は追われながら枯れ木の林に迷い込んでいた。  空を見れば星の位置がずれている。  道を間違えた。  戸惑いつつ、どこか逃げ込める場所をと探しているうちに、木陰から手が伸びる。  振り払おうと柄を握りしめる央に、低い声が素早く囁いた。
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