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あの放課後の一件があってからというもの、気付けば彼は私のストーカー化(?)のようなものになっていった。
今までどんな女子或いは男子の誘いは自ら断っているのに、私に対しては反対に自ら誘ってくるようになった。
少女漫画のような展開で少しは嬉しいものの、やはり女子からの目線は怖い。
「なに、あの子」
「どうしてあの子なの」
なんて声の矢が右往左往どこからでもやってくる。
こんなんじゃ、女の子の友達なんて一生できないじゃん。
だから毎回私は「ごめんなさい」と断っているのに、彼はめげない。
──本当はね。嬉しいんだよ。
転校生であるイケメンの空野くん。
友人第一号になれるかもしれない人。
だけど、同性からの視線というものは殺気があり、いつか私の身に何か危険が起こるかもしれない。
本当は嬉しいけど、心を鬼にして、これは嫌でも断り続けるしかない。
そんな時に限って、日誌を書いているあの放課後にまた彼がやってくる。
「どうして伊織さんは、僕の誘いを断るのです?」
「それは……」
「もしかして、僕のこと、嫌いですか……?」
「そんなこと!……ないよ……」
「だったらどうして?」
「それは、空野くんはマスクをしていても超が付くほどイケメンだし、コミュ力あるし、男女問わず人気だし、それに──」
「(コミュ力……とは……?)それに?」
「……それに……他の女子から私が空野くんを独り占めにしている風に見られているから他の女子の目線が怖いし、空野くんが私のこと好きなんじゃないかって勘違いされるかもしれないから。まぁ、空野くんが私のこと好きってことはないだろうけど──」
話の途中、自分の唇に何かが触れている気がした。
時間にしてはほんの数秒。だけど、私には少し長く感じた。
それはきっと……いや。
間違いなく、キスだ。マスク越しとはいえ、私たちはキスを交わした。
「なっ!なにを──」
どうしてキスなんか……。
確かに私は、彼が私を好きかもしれないという仮定の話をしたけど。
キスをしたということは、そういうことなのだろうか──。
否。それは断じて違うと思う。
彼が私を好きになるきっかけなんてない。
──もし。
もし、あるのであれば私の文字だろう。
あの時。
綺麗だと褒めたのは文字だけであって、私のことは一ミリも綺麗だとか可愛いだとかそんな言葉は発していない。
彼が好きになったのは私の文字でしかないはずだ。
だから好きとか、恋とか、愛だとかそんなものではない。
でも…………どうしてキスなんか……?
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