眠れるハニー!

1/3
83人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ

眠れるハニー!

 世の中の16歳っていったいどんなことを考えているんだろうって、たまに思うことがあるんだ。  ぼくは16歳で、高校生活を一番楽しんでいるはずの年齢で。  16歳に許される日常はいくらだってある。でも、今のぼくにそんな余裕はない。  今やるべきことはただひとつ。満員電車の中で目の前に座っているオジサンに集中すること!    50歳過ぎのくたびれた感じのサラリーマン。たぶん係長止まり。ワイシャツの襟もヨレヨレだから、奥さんにアイロンもかけてもらえないダメダメ親父なのかも。社内の女の子に辛辣なあだ名を付けられているはず!  スマホを持っていないぼくは、登校時間の暇つぶしにいつもこんな風に人間ウォッチングをしている。  普段ならもっと妄想を爆発させて勝手にオジサンの人生ストーリーを作ってしまうところだけど、今は我慢。  隣の女性に睨まれながら、オジサンが読んでいる小さくたたまれた新聞。ちょうどぼくの位置から覗き込めるところに求人広告欄が見える。  『ハウスキーパー募集/性別・年齢・経験不問/住込/電話番号・・・・・・』  この求人がぼくの救世主になるかもしれない。  性別も年齢も経験も不問てことは、男子高校生でもOKってことだよね?  ハウスキーパーってお手伝いさんってことでしょ? 家事全般ははっきり言ってぼくの得意分野だ。  なんたって住み込みっていうのが魅力的。もうすぐ住むところがなくなってしまうぼくにとって、これ以上惹かれるひと言はない。  このまま高校生活を続けるためにはどうしてもお金を稼がなくちゃいけないし、住むところも探さなくちゃいけない。グズグズ考えてなんかいられないんだ。  駅に着くまでの15分をこれほど長く感じたことはない。  電車を降りると、ぼくは人の波をかき分けるようにして全速力で階段を駆け上った。    改札近くの公衆電話の前で、ぼくは頭の中に散らばっていた数字をかき集めるようにしてボタンを押したんだ。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!