眠れるハニー!

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 事情があって、ぼくは中学に通うのが少し遅れた。初登校は入学式から2週間も過ぎた頃。既にクラスの中にはいくつかのグループが出来上がっていて、ぼくの居場所はなかった。  5月の林間学校のときも、くじ引きで決まったオリエンテーリングのグループは何となくぎこちなくて、ぼくはグループの輪から離れて1人で山を登っていた。  誰とも話さず1人で黙々と登っていると急に足下がふらついてきて、仕方なく近くの岩場に座り込んだ。    しばらくボーッとしている間、クラスメートたちが横目でチラチラぼくを見ながら進んでいく。誰も声をかけてはくれなかった。  来るんじゃなかったなと思った。別に苛められているわけではないけど、ずっと遠巻きにされているのはやっぱりツライ。  帰りたい・・・・・・そう思って俯きかけたとき、ぼくの前に派手なNIKEのスニーカーがピタリと止まった。見上げると、そこに幹生が立っていた。  大丈夫か?って言って、幹生はぼくに手を差し出した。男子にも女子にも大人気のやつだったから、ぼくはちょっとびっくりした。 「え。ああ、うん。大丈夫」  ありがとうと言いながら、ぼくは差し出された手を掴んで勢いを付けて立ち上がった。幹生の顔を間近に見るのは始めてだったけど、ハーフだということはクラスの雑談で聞こえてきていた。  本当に綺麗な顔だ。そう思った。  彫りの深いハッキリとした目鼻立ちに、額を隠す長い前髪。琥珀色の瞳が穏やかに笑っていたのを今でも忘れない。  それから幹生は、ぼくの手を引いて一緒に山を登ってくれた。あの日から、ぼくと幹生は親友同士だ。  幹生は優しい。いつだってぼくを心配して助けてくれようとしてくれるけど、自分の生きる道は自分で探さないとね。  何人もの同級生が、ぼくたちに声を掛けながら学校に向かって走って行く。そろそろ急がないと本当に雨が降り出しそう。 「大丈夫だよ。とりあえず行ってみる。変態オヤジだったらこの俊足で逃げてくるからさ。それより急がないと降ってくるよ!」    まだ何か言いたそうな顔をする幹生の腕を引っ張ってぼくは走り出した。  ぽたりぽたりと大粒の雨が頭上に落ちてくる。幹生は諦めてぼくの手からスポーツバッグを奪い取り2人分のバッグを肩に掛けると、ぼくを庇うようにして走り出した。  放課後になっても雨は止まなかった。  サッカー部の室内練習をサボって一緒に付いて行くという幹生を説き伏せて、ぼくは授業が終わるとすぐに校舎を出た。  空は濃い灰色で手が届きそうなほどに低い。両親が死んだ日も、親戚の叔父さんの家に引き取られた日もこんな天気だった。雨の日はあまり良い想い出がない。  でも今日はそんなことは言ってはいられない。きちんと挨拶して、高校生だけど家事ができることもアピールしてこなくちゃ。
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