エイプリル・フォール

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四月一日。朝の十時。 会場である、都内のビルの貸し会議室に着席するとそこには、普通のサラリーマン。主婦ぽっい人。地雷系ファションの子。金髪ヤンキー風の若い男の人達が言葉を交わす事なく、長机の前に既に着席していた。 皆スマホを弄っていて、チラッと私を見ても直ぐに視線はスマホに戻った。 その空気感が、場違いな場所に迷い込んでしまったかもと。思ったが、ここまで来たら帰ると言う選択肢もなく。 他の四人と距離を考えつつ。後方。端っこの席にそっと着席した。それから少し経つと。人がまた入ってきた。 その人物は迷う事なく上座の席にすっと座った。 それは、あどけなさが残る高校生ぐらいの少年だった。 黒いシャツに黒のジーンズ。知的そうで整った顔立ち。まさかこの人物がと、思ったのは皆一緒でスマホをから手を離して一斉に前を向いた。 「こんにちは。僕が四月一日一です。抽選の結果。五名の皆様にお越し頂き、誠にありがとうございます」 よく通る声で挨拶したかと思うと、無造作に手に持っていた紙袋から帯が付いた百万円をポンポンと、五束。長机の上に置いた。 ごくりと誰かが生唾を飲む音がした。 「これが賞金です。十分間嘘を吐き続けた人に差し上げます。まぁ、僕の正体は最近遺産を手に入れた名家の子息だと思って下さい」 ニコリと笑う少年。 目の前の百万円の束が無かったら、思わず失笑してしまったかもしれない。 それは私以外の四人も一緒なようで、誰も茶化す事なくじっと少年の言葉に耳を傾けていた。 「簡単にルールの説明をします。十分間嘘を付いて下さい。十分後にアラームが鳴るようにスマホで設定します。五分経過すると質問しますので、嘘で答えて下さい。本当のことだと、それが僕に判った段階で退場して貰います。順番は、そうだな。苗字の順番にしましょうか」 そう言うと、そこに一番前に居たサラリーマンが挙手をして、少年が首を縦に振ったのを見てから声を上げた。 「質問ですが、人の心を読めると言うのは本当ですか?」 「本当ですよ」そう言って、すっと左手上げ、キラリと紫に光る数珠を見せつけながら「これを外したら、人の思考って言うのかな。そう言うのが聞こえるんです。普段はこの数珠、お守りなんですけど。これを付けている間は人の心を読めませんから、安心して下さい」 「そうですか。それには信用しかねますが、嘘か本当。それをどうやって見抜くつもりですか。嘘が嘘である証拠なんて無理でしょう。本当のことも、また然り」 「そうですね。仰る通りです。嘘か本当かだなんて僕の判断次第ですね。僕が気に食わないと思うのならもう、帰っても結構ですよ。僕は純粋な嘘を聞きたいだけです。一応、僕なりの誠意としてここに居る五人が、全員しっかりと嘘を付いてくれると思って五百万を用意したので、ここに居る以上。僕のジャッジに従って下さい」 そう少年に言われると、サラリーマンは沈黙した。 私からではサラリーマンこ後頭部しか分からないが、その表情はきっと苦虫を噛み潰したような、顔をしているんじゃないかと思った。 少年は五百万を前にして。 「では、初めましょう。途中。五分経過の合図はこちらでお伝えします。では最初は相川恵理子(あいかわえりこ)さん。どうぞお願いします」 こうして、四月一日。 エイプリルフールは幕を開けた。
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