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三月一日。SNSに四月一日一氏なる者の、アカウントが設立され。その文章がネットに広がると世間はあっという間に、その投稿に食い付いた。
厨二感漂う謎の人物。
厨二感的な名前。
厨二感な内容。
しかし、厨二感満載だろうが「百万円あげます」と言うパワーワードは非常にネット民の注目を集め。一日目にして万バズ。メディアにも取り上げられ、注目の的になり。皆、面白半分で参加希望のメッセージを四月一日氏に送るのだった。
そして──私もその内の一人になろうとしていた。
深夜、ぼうっとワンルームのアパートの暗闇の中。ベッドの上でスマホを見つめる。
スマホ画面には、四月一日氏のダイレクトメッセージ画面が表示されていた。
「本当に、嘘付くだけで百万円くれるのかな」
別に面白半分とかではなく。嘘に自信があるとかじゃくて。単純にお金が欲しかった。
遠距離恋愛で貯金を溶かしてまで、毎月会っていた男に浮気をされてしまった。
そして破局。
よくある話し過ぎて、自分で失笑してしまう程。
周囲の友人達に破局を知られて、優しくされるのが嫌で「私、まだ結婚なんかしたくなかったし。今の仕事楽しいし」と──強がりな嘘を言ってしまう程。
夜行バス代、新幹線代、タクシー代、ホテル代。その他、諸経費。三年間の遠距離恋愛費は高くついた。
「ほんと、時間もお金も返してよ……」
これは嘘なんかじゃなくて、本当。
ごろりと寝返りをうつ。
そんな事を言っても時間もお金も返って来ない。あの男から「さよなら」の返事も返って来ないのに、無理ゲー過ぎる。
でも、この四月一日氏のゲームなら「大丈夫。気にしてなんかない」って嘘を、周囲に本当のように言える私なら出来るかなって。
そう思い『矢野真実 26歳』と、画面に書き込み。どうせ当たらないのだろうと思いながら、メッセージを送ったのだった。
それから一週間後。
まさか当選の連絡が来るなんて、この時は思いもしなかった。
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