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割れ鍋に綴じ蓋
喧騒がどこか遠く聞こえる。俺は顔が見られないように下を向きキツく目を瞑った。しかしそんな努力も虚しく、よく通る声で声を掛けてくる人間がひとり。
「あーーー!ヴォンガルド隊長!急にいなくなられたと思ったらこんなとこでまた再会できるなんて!再会と言っても俺はさっきまで一ファンとして遠くで見つめてただけなんですけどね(笑)って、あれ?まさかそれテディですか?!」
メイソン……俺に大人しくしろと言っておきながら何て声のデカい奴なんだ。俺の名前を口にするな。
「ああ、どうやら飲み過ぎたみたいで酔って転んでバルコニーの手すりで頭を打って吐いてそのまま立てなくなったらしい」
「えーー!!他人に迷惑かけるタイプの酔っ払いじゃないですか!!申し訳ありません!は!ヴォンガルド隊長のお召し物は無事ですか?!」
コイツら……殺す。
ムカついたのでヴォンガルドの背中を拳でド突いたものの、まるで鉄板でも入ってるかのように硬くて俺の手の方が負けた。クソクソクソ。
「実は俺達ちょっとしたツテ使って今日ここに来てて……それで、このこと誰にも言わないで貰えたら有難いっていうか~あ、テディ預かります!ゲロついてます?」
「心配しなくても誰にも言わない。それと、テディは俺が送るから大丈夫だ。ああそうだ、色付きの酒はアルコール度数が高いから君も飲まない方がいい」
「あ、俺は酒飲めない体質なんで大丈夫っす!ヴォンガルド隊長にそんな風に言ってもらえるなんて嬉しくて死にそう!じ、じゃあ申し訳ないんですけどテディのこと宜しく御願いします!実は俺今から彼女の家行くことになってて……あれだったらそこらの道端に転がして貰っても大丈夫なんで!では、失礼します!!」
「ああ、気をつけて」
メイソンの大声のせいで頭痛までしてきた。そもそも何で俺は助かったとばかりにこのクソ男に大人しく担がれて悪態の一つも吐いてないんだ。あの優男にしろヴォンガルドにしろ掘られるのが確定ならまださっきの男の方が優しく抱いてくれるかもしれない。しかしそんな俺の思考をまるで見透かしたかのように、再び歩き出したヴォンガルドが低い声で笑った。
「さっきのあいつ、知らないようだから誰だか教えてやろうか」
「名前、言われてもわかんね……」
「名前は知らなくても役職は解るだろう。奴は一番隊隊長のジーン・マクスウェル。王族の血筋だか何だか覚えちゃいねェが、アイツは根っからのサディストだ。椅子に踏ん反り返って部下の報告を偉そうに聞いてるだけでいいのにキナ臭い諜報や口の堅ェ馬鹿を自ら尋問するのが趣味のイカれた野郎だ」
「……」
サディストなのはテメェもだろうが。とは思うが今のところ血が出るような怪我を負わされたことはないので口を噤む。
「あいつの好みは潔癖そうなインテリ眼鏡だ。精神が屈強なら尚良い。今はうちの副隊長にご執心でよォ、お前は一見神経質そうな堅物眼鏡だが中身は単純でそのくせ小狡い小心者だからあいつの好みとは外れてる」
「死ねクソ」
もう怒鳴りつける気力もない。自らの身体の中で行き場のない熱がグルグルと対流しているみたいだ。いつの間にか大広間から回廊へ移動していたのに気付き、俺は我慢出来なくなって気を紛らわすようにヴォンガルドの首に歯を立てた。
「……オイ」
「ッ、我慢出来ね、キツい」
結構な力を顎に込めたつもりだがヴォンガルドの皮膚は硬く血の一滴も出やしない。諦めて今度は吸い付いてやったが痕の一つも付けられなかった。こいつの身体どうなってるんだ?
「後悔すんなよ、クソガキ」
「ぅえッ……、」
刹那、空気が揺れて空間が歪んだ。
次に瞬きした時にはそこは既に見知った客舎の一室だった。
転移した、その衝撃に少しだけ頭が冷静になる。武官の隊長格は異能、所謂魔力持ちが多いとメイソンが話していたのを思い出す。そんなもの信じていなかったが実際に体験してしまうと信じざるを得ない。こんな化け物みたいな奴と今まで幾度か寝て、そして今からも身体を重ねようとしている。改めて考えると現実味のない話だ。だって俺はこいつとは違うただの凡人なのに。
ドサリと雑に降ろされそのまま床にへたり込んだ。膝が笑って立っていることが困難だった。
硬い材質の隊服を押し上げるほど成長しているヴォンガルドのモノに無意識に手を伸ばし布地の上から撫で上げる。俺がこうして自らの意志でヴォンガルドに触れたのは初めてのことである。
「早くブチ込んでくれよ、コレ」
「ああ、直ぐにくれてやる」
ヴォンガルドの灰色の眼が興奮に血走っている。望めば好きな女を抱けるこの男がどういうわけか今夜俺を選んだのだと思うと、何だかたまらなく気分が良かった。
とっととブチ込めと言ったもののそれを実行されるとケツが使い物にならなくなる。初めて突っ込まれた時と同じ香油を乱暴にぶっ掛けられたかと思うと穴を拡げるためだけにヴォンガルドの指がナカへ押し入ってきた。
「熱いな」
「ん、ぐッ」
何度寝たって最初はどうしても苦しい。意識して力を抜いて、それでもあまりに性急な動きにうまく呼吸が整わなくて夏場の犬みたいに呼吸が浅くなった。
「もっと、ゆっくりしろよ」
「煽ったのはお前だ」
指が三本何とか抜き差し出来るようになったところでヴォンガルドの方に限界が来たらしい。止める間もなく脚を持ち上げられる。宛てがわれた陰茎が燃えるように熱く感じた。まるで吸い付くように穴が収縮するのが自分でわかって羞恥で死にたくなった。卑猥な水音と共に大きく張り出した亀頭がゆっくりと侵入してくる。ヴォンガルドの陰茎ははっきり言って規格外だ。これに慣れることは正直一生ないと思う。
しかし喉元過ぎると何とやらというか、自分でもわからないある一点を抉られると視界に星が散るほどの快感に襲われる。あの怪しげな酒のせいなのかこの高性能の香油のせいなのか今日はいつもより身体が敏感だった。
ヴォンガルドの長大なブツが奥を突く度に腰の抜けそうな快楽が伴う。
「ぁ、あ、ァッ!!」
「さっきの威勢はどうしたんだ?」
何故男の身体のこんな場所にこんなにも感じる器官を創り賜うたのだろうか。涎とカウパーをダラダラ垂らしながら何度か絶頂に達してるはずなのにいつまで経っても射精には至らなかった。
「こんなに雌イキばかりして、もうお前女なんか抱けねェな」
「ぜんぶッ、おまえのせいだろッ……!」
「責任転嫁するな、元を辿ればお前が俺の金を盗んだせいだ」
こういう時に正論を吐く奴は嫌いだ。あんまり腹が立ったせいかヴォンガルドのモノを締め付けてしまう。ヴォンガルドが眉間に皺を寄せて唸り声を上げた。
視界が点滅する。身体が無意識に丸まろうとして、でも許してもらえなくて不自然な態勢で痙攣を繰り返す。この男との情交はいつも嵐のようだ。正気を保っていられなくて俺はあられもない喘ぎ声を上げながらヴォンガルドの背中に爪を立てた。かたくて爪の方が剥げそうだった。
今までの性交が暴力に近い不本意なものだったとしたら今日のそれは何だか違うように思えた。良くない。非常に良くない。
身体は過度なアルコールとセックスに疲れ果て起き上がることも困難だ。ああ、寝ている場所も良くない。よりにもよって裸のヴォンガルドの逞しい、丸太のような腕に頭が乗せられているのである。これは所謂腕枕というやつではないだろうか?こんなにもかたいのに不思議と寝心地は悪くない。だが寝心地は良くとも居心地は悪い。
もぞもぞと動いてどうにか体勢を変えようとしたが、頭の後ろに掌が回されそのまま引寄せられた。抱き込まれている。状況はより最悪になった。
「寝ろ」
男の肌は乾いていて、汗とそれから肌の匂いがした。それが少しも不快じゃないのが不思議だった。寧ろこの男も人間なんだなと何故か安心した。血の臭い、はたまた全くの無臭だった方が現実味がなくて良かったのに。
ゆっくりと顔を上げると鼻先がヴォンガルドの顎に触れた。少しだけ伸びた無精髭がチクチクと肌を刺激するのが不快で、さらに顔を上げると今度は鼻先同士が触れ合った。視線が交差する。どちらか先に動いたのかはわからない。男の顔が下げられたと同時に唇に乾いた唇が触れて直ぐに離れた。唾液を交換するような下品な口付けを交わしたこともあると言うのに今のは一体なんだと言うのだ。まるで子供みたいなそれに笑いが出そうになった。
「寝ろ」
ヴォンガルドがもう一度同じ事を言った。からかってやろうかと思ったが普通に殴られる可能性もあるので大人しく目を瞑る。
眠りは存外直ぐに訪れた。
end.
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