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『そっち、もう少し引っ張ってー。』
橋本さんが叫ぶ。
今年もこの季節がやって来た。
夜桜お花見の為の場所取りだ。
僕たちは昨年とほぼ同じ場所に大きなブルーシートを広げた。
『こんなもんかね。』
橋本さんはさっそくスニーカーを脱いで上がり、ロングスカートをふわりとさせながら座り込んだ。
僕も靴を脱いで、ブルーシートに大の字に寝転がり伸びした。
満開の桜の隙間から見えるオレンジ色の空はまだ眩しい。
『芹沢くん、今年は文句言わないんだね。』
『この1年の間に大人になったしね。
昨年橋本さんが言ってたみたいにこの時間が楽しい。』
『あはは。それはよかった。』
そう言って僕の顔を覗き込む姿は逆光の夕陽で金色に縁取られ…泣きたくなるほど美しい。
そして橋本さんも『うぅーっ!』と両手を上げて伸びをしてからシートに寝転がった。
僕の隣で大の字になり桜を見つめながら『最高』と呟いた。
言葉とは裏腹にその目は昨年と同じく…憂いている。
少し動いた拍子にぶつかった手を握ると、橋本さんの手が硬くなり困った顔でこちらを向いた。
同じ高さで目が合う。
そんな顔をされても今日は手を離すつもりは無い。
『みんなが来る前に桜の下で話したいことがあるんだ。』
僕は捉えた手をぎゅっと握りしめた。
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