僕の高嶺の花⑦

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僕の高嶺の花⑦

腕の中に天音を抱いて宰はまどろんでいた。 腕枕に頭を乗せて、穏やかな顔で天音が目を伏せている。長い睫毛が綺麗で、チュと瞼に口付けると天音がそっと瞳を開けた。 「ふふくすぐったい」 「......」 目の前で無防備に笑う天音が可愛くて、宰は何度も顔中にキスを降らす。最後に口にキスをして、深く重ねると軽く天音の舌を吸ってから唇を離した。 「ふふ......」 宰を見つめて天音は微笑みを浮かべる。幸せそうな表情を隠しもせず、天音は宰を見つめて頬を緩める。 「ほんと夢みたい...嬉しい」 「先生......」 あまりに幸せそうな表情に、胸がじんわりと温かくなる。宰は指先で、微笑む天音の頬を撫でた。 「......そういえば先生、俺のこといつから好きだったの?」 「知りたい?」 ジッと大きな瞳が宰の瞳を覗き込む。少し小首を傾げて問いかける仕草がとても可愛くて、勝手に緩む頬を感じながら宰は頷いた。 「最初から......佐々木くんが声をかけてくれた時からずっと好きだった」 「俺が声をかけた時って」 宰が声をかけたのは、天音が教育実習にやってきた当日だ。 まさかそんな最初から、宰を想ってくれていたなんて信じられなくて宰は驚く。 「佐々木くん僕に、きっと先生はいい先生になるねって言ってくれたんだよ。僕ね...先生になりたかったんだけど、全然自信がなくて、あの言葉がどれだけ嬉しかったか......」 それは宰が何気なく言った一言だった。自分はただ思ったことを口にしただけだ。 「あの後も佐々木くん色々助けてくれて、こんな素敵な人にあんな風に優しくされたら好きにならないなんて無理だよ。教育実習が終わった後もつらい時とか大変な時は、佐々木くんがくれた言葉を思い出してた。佐々木くんの存在がどれだけ僕の励みになってたか......」 天音の手が宰の頬に伸びてきて包み込む。 「まさか再会できるなんて思ってなかったから嬉しかった......ずっと忘れられなくて、ずっとずっと好きだったから。その上佐々木くんも僕のこと好きだったなんて、こんな幸せなことない」 キラキラと潤んだ天音の瞳が輝く。堪らなくなって宰は天音を腕の中に引き寄せた。 「せんせい......」 強く腕の中に抱きしめる。 「好き、大好き......愛して、る」 宰もどれだけ天音に会いたかったか、恋しかったか。それを伝えたいのに胸がいっぱいで、好きだと告げるのが精一杯だ。 「うん、僕も...あいしてる」 だけどそれだけで充分というように、天音が蕩けるような笑顔になる。 宰はさらに強く抱きしめて、腕の中の天音に向けて好き好きと何度も繰り返した。 「まさか......佐々木くんみたいな高嶺の花に手が届くなんて思いもしなかったな......」 「え?」 小さく呟く天音の声が聞こえなくて聞き返す。 「ううん、なんでもないの」 そう言って天音は幸せそうに微笑んで、宰の胸に顔を埋めた。その髪を愛しさを込めて撫でる。 撫でる手が心地いいのか、天音がうとうとと瞼を閉じ始める。 先程まで宰が激しく求めてしまったので疲れているはずだ。宰は天音を胸に引き寄せると、体にかけていた上着をかけ直して温めるようにくるんで抱きしめる。 宰の体温に安心するよう息を吐いて、天音は腕の中にすり寄った。 「ささきくん......だいすき......」 そう呟いて、天音は眠りに落ちていった。 「っ......」 宰は息を飲む。目の前で天音が安心しきった顔でスースーと寝息を立てていた。 腕の中にいる存在が大切で、愛しくて堪らない。胸がいっぱいで、切ない程に愛しさが積もる。抱えきれないほどの幸せに襲われて、胸が痛いぐらいに締め付けられた。 もっと自分に自信を持とう、宰にもっと自信があればこんな風に遠回りしなくてすんだ。 (いや、これも必要な時間だったんだな......) 宰はすぐにそう思い直す。天音が腕の中にいるだけで、想い続けた苦しい日々も愛しく感じてくる。 この人が側にいるなら宰は自信を持つことができる。 (先生......愛してる) 天音が寝ていてよかった、瞳から零れ落ちる涙を見られなくて済んだから。 愛しく幸せな温かい温もりを宰はとても大事そうに抱きしめ、天音の髪に顔を埋めて強くその体を抱きしめた。
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