恋の花咲くこともある

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 うちの職場において、花見の場所取りは新人の仕事とされている。  俺の在籍する部署にはあまり新入社員が配属されないため、入社七年目に入っても、未だ『新人』として場所取り係を担当している。上に逆らえないのは、体育会系男に染みついた隷属体質なのだろう。  正確にいえば、四年前に一名配属はあった。  だが女性だったのだ。  働き方改革。女性にも働きやすい職場を。  誰であってもできるように仕事を変えていくのが時流。  そんななかにあっても、場所取り係は女性に割り振られることはなかった。  部課長が協議した結果、「やっぱりやめたほうがいいよな」となったらしい。課長に呼ばれ「谷川(たにかわ)、悪いんだけど今年も頼めるか?」と申し訳なさそうに言われてしまった。  毎年のことだから場所も決まっているし、周囲にも馴染みの顔が見え隠れする。  あそこの会社はあの辺、みたいなお約束もできあがっているため、あとからやってきた誰かに「ここは俺たちが先に目をつけてたんだぜ」的な、子どもの陣地争いみたいなものは起きたことがない。だからこそ新人へお任せできる仕事である。  それでも女性を派遣することをためらった上司たちに対し、否やはなかった。  場所取りは昼からおこなわれる。  その時間帯は、すでに弁当をつつくお花見客が存在するのだ。  子どもたちと一緒に座るお母さまグループ、近隣の保育園・幼稚園の子どもと引率の先生は微笑ましいものだが、昼間から飲酒をするどこかの学生サークルは厄介な存在。  大声で騒ぎ、自分たち以外の存在は考慮していない。  ただでさえ視野が狭いのに、アルコールのおかげで気が大きくなり、我こそがすべてとばかりにどんちゃん騒ぎを繰り広げる。治安が悪いなんてもんじゃない。
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