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――カノンの実家。
庭の一本桜は満開である。まるでユキの誕生日を祝っているかのようだ。
カノンの寝室に入ったユキは目を丸くした。
テーブルにオードブルが置かれている。ユキの大好物ばかりだった。
「これ、もしかして全部カノンさんの手作りですか?」
「ふふ、そうよ。気に入ってもらえたかしら」
「ちなみにメニューを考えたのは僕なんだがな――おや? 並べてあるお皿はもしかして」
「気づいた? このお皿全部、春のパン祭りでもらったものよ」
「なるほど。にくい演出じゃないか。僕も頑張った甲斐があったというものだな」
「頑張ったのは私よ。ミノルはただパンを食べただけじゃない。せっせとシールを集めてお店からもらったんだから、もっと私を褒めなさいよ」
「ところでパンが見当たらないのだが」
「今日はユキちゃんのお祝い。ミノルの好みなんて関係ないわ」
「まあよい。それでは席につくことにしよう」
三人はコーラで乾杯した。
「ではお約束のアレ。さあユキちゃん、どうぞ」
ユキはバースデーケーキに向かってふうっと息を吹きかけた。蝋燭の火が消える。拍手が鳴った。
満面の笑みを浮かべる十七の少女。
そこへ白い猫が顔を覗かせた。
「チャーム。あんたもアタシのお祝いに来たの?」
「ニャー」
「こっちにおいで。一緒に食べよ」
「ニャー!」
チャームはぐるぐると喉を鳴らし、ユキにすり寄ってきた。
「まったく。こういう時だけ素直なんだから」
この日のユキは一日上機嫌となり、家に戻っても笑顔を振りまいては、珍しく家の手伝いをするなど、まさに生まれ変わった女として過ごすこととなった。
そして翌日、彼女はカノンと待ち合わせをしていた。
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